見落としがちな「教育…

昨日、2023年6月21日にジェンダーギャップ指数2023が公表されました。
本記事では、「ジェンダーギャップ指数とは?」という基礎知識やジェンダーギャップ指数の評価方法から実際の評価までご紹介。
さらに見落としがちな「教育分野」の盲点についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

ジェンダーギャップ指数とは?

「ジェンダーギャップ指数」とは、スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が、男女間の格差を経済・教育・健康・政治の4分野の指標を用いて測定し、毎年公表している男女格差を測る指標です。賃金格差や政治への参加など、複数の観点から男女格差を図ることで、各国が男女格差を把握し改善することを目的として、2006年から毎年公表されています。

これまでの日本の順位

ジェンダーギャップ指数は2006年以来17回公表されてきました。
では、日本はどのような順位を辿ってきたのかを見ていきましょう。

タイトル日本の順位参加国数
200679位115カ国
200791位128カ国
200898位130カ国
2009101位134カ国
201094位134カ国
201198位135カ国
2012101位135カ国
2013105位136カ国
2014104位142カ国
2015101位145カ国
2016111位144カ国
2017114位144カ国
2018110位149カ国
2020121位153カ国
2021120位156カ国
2022116位146カ国
2023125位146カ国

このデータを見ると、年々順位が下がっていることがわかります。
毎年参加国数が変わっているので、一概に順位だけで評価することは難しいですが、常に低い順位であることがわかります。

トップ10の国

次に、トップ10位の国を見ていきましょう。

順位エリア
1位アイスランドヨーロッパ
2位ノルウェーヨーロッパ
3位フィンランドヨーロッパ
4位ニュージーランドオセアニア
5位スウェーデンヨーロッパ
6位ドイツヨーロッパ
7位ニカラグアアメリカ
8位ナミビアアフリカ
9位リトアニアヨーロッパ
10位ベルギーヨーロッパ

ヨーロッパエリアのランクインが多く、アジアが1国も入っていません。
ちなみに近年は、アフリアエリアの上位ランクインが目立ってきています。

ジェンダーギャップ指数の評価方法

ジェンダーギャップ指数は、健康・教育・経済・政治の4分野14項目を「女性÷男性」で計算してスコア(指数)を算出します。「0」が完全不平等、「1」が完全平等となり、「1」に近いほどジェンダー平等として評価されます。

日本の各分野の順位は?

次に日本の分野ごとの順位を見てみましょう。

健康59位、教育47位、経済121位、政治138位となっています。
健康と教育に対して、経済と政治のランキングが非常に低いことがわかります。

1位アイスランドとのスコア比較

ここで、1位アイスランドと日本を比較してみましょう。

アイスランドはきれいな四角を描いていますが、日本は政治分野のランクが異様に低いことが原因で、いびつな三角形を描いていることがわかります。

見落としがちな「教育分野」の盲点

上記の図を見ると、健康と教育は日本とアイスランドはほぼ同じスコアのように見えます。日本は、健康と教育においては問題ないということでしょうか?
教育分野の評価基準となる小項目を見ていきましょう。

「教育分野」は4つの小項目で評価

教育分野では下記4つの小項目によって評価されます。

  1. 識字率(文字の理解・読み書きができる人の割合)
  2. 基礎教育在学率(小学校)
  3. 中等教育在学率(中学・高校)
  4. 高等教育在学率(大学・大学院)

教育分野単体ではアイスランドより日本の方が上位

教育分野単体のランキングを見ると、総合ランキング125位の日本は47位で、総合1位のアイスランドは68位でした。アイスランドが日本より低いなんて意外だと思いませんか?詳しく見ていきましょう。

上記は、教育分野4項目のスコアを日本とアイスランドで比較したグラフです。
これを見ると、識字率は日本もアイスランドも完全平等。しかし、基礎教育在学率(小学校)と中等教育在学率(中学・高校)では、日本の完全平等に対してアイスランドは低いスコアになっています。逆に、高等教育在学率(大学・大学院)では、アイスランドの完全平等に対して、日本は低いスコアになっています。

真実が隠れやすい評価方法

筆者が気になる点として、小学校〜高校までの在学率と大学・大学院の在学率を同じ評価基準にして良いのか?という疑問です。
一般的に、経済が成長している国や地域では、大学への進学率が高い傾向にあると言われています。そして、大学・大学院卒が中卒・高卒に比べて所得が高いことは周知の事実です。
単純に考えると、大学・大学院の在学率のジェンダー格差は経済・政治分野におけるジェンダー格差に影響をもたらすと容易に想定できます。
しかし、4項目をまるっとまとめて評価することで、日本の教育分野のスコアが相対的に高くなってしまい、教育まではジェンダー平等にも関わらず、なぜか経済・政治分野だけ圧倒的な低順位になるというおかしな誤解を与えてしまうのではないでしょうか。

主要先進国(G7)の教育分野のスコア

参考までに、主要先進国(G7)の教育分野のスコアを掲載します。

総合順位教育分野
順位
識字率基礎教育
在学率
中等教育
在学率
高等教育
在学率
カナダ30位1位1.0001.0001.000
フランス40位1位1.0001.0001.0001.000
ドイツ6位82位1.0001.0000.9541.000
イタリア79位60位0.9970.9970.9851.000
イギリス15位34位1.0000.9981.0001.000
アメリカ43位59位1.0000.9990.9791.000
日本125位47位1.0001.0001.0000.976

ご覧のとおり、高等教育在学率は、日本以外はすべて1.000の完全平等ですが、約半数が教育分野で日本よりも低い順位になっています。

在学率だけではジェンダー格差を測れない

そもそも論として「在学率だけでジェンダーギャップは測れないのでは?」という懸念もあります。
画一的な教育手法や教師のジェンダーバイアス(性別に対する偏見)が、生徒の学びにどう影響するかはまだまだ研究途中で結論が出ていないはずです。

ジェンダーギャップ指数はあくまでも目安

まとめると、ジェンダーギャップ指数は必ずしも正しいジェンダーギャップの状況を表していないということです。公表されているデータはあくまでも1つの参考として捉えましょう。

健康・経済・政治分野のスコア

ここまで、教育分野の話ばかりしてしまいましたが、その他の健康・経済・政治分野のスコアについても日本とアイスランドの比較グラフでご紹介します。

健康分野

健康分野では下記2つの小項目によって評価されます。

  1. 新生児の比率
  2. 健康寿命の比率

健康寿命の比率のスコアが1.000を超えていますが、これは逆格差を表しています。すなわち、女性の方が健康寿命が長いということです。

経済分野

経済分野では下記5つの小項目によって評価されます。

  1. 労働参加率
  2. 同じ仕事の賃金の同等性
  3. 所得の推計値
  4. 管理職に占める比率
  5. 専門職に占める比率

経済分野では、今回「専門職に占める比率」のデータが「–」となっており、スコアが算出されていません。ちなみに前回も「–」でした。
前々回の2021では、スコアが0.952で、経済分野の順位は「110位」でした。

政治分野

政治分野では下記3つの小項目によって評価されます。

  1. 国会議員に占める比率
  2. 閣僚の比率
  3. 最近50年間の国家元首在任年数の比率

政治分野の「最近50年間の国家元首在任年数の比率」は女性が0人のため、毎年「0.000」の完全不平等のスコアを更新し続けています。

主要先進国(G7)の17年間のスコア推移

最後に、主要先進国(G7)の2006から2023のスコア推移を見てみましょう。

2006
総合順位 / スコア
2023
総合順位 / スコア
ドイツ5位 / 0.7526位 / 0.815
イギリス9位 / 0.73615位 / 0.792
カナダ14位 / 0.71630位 / 0.770
アメリカ23位 / 0.70443位 / 0.748
フランス70位 / 0.65240位 / 0.756↓
イタリア77位 / 0.64679位 / 0.705
日本79位 / 0.645125位 / 0.647↓

2006年時点ではドイツ・イギリス・カナダ・アメリカ4カ国のスコアは0.7台で、フランス・イタリア・日本の3カ国は0.6台でした。そこから17年が経ち、日本以外の6カ国はすべて0.7台に伸び、日本だけが依然として0.6台になっています。

フランス、イタリアはがんばって追い上げたものの、日本は17年間ほぼ横ばいです。

日本の立場を弁解すると、何も対策をしなかった訳ではなく、他の国の対策スピードが速かったと捉えることもできます。

いずれにせよ、2006年時点で日本と同じ位のスコアだった2カ国が17年で追い上げることができた訳ですから、日本もこれから改善の余地はいくらでもあるはずです。

まとめ

いかがでしたか?
ジェンダーギャップ指数が公表されたことにより、改めてジャンダーギャップについて考える良い機会になったのではないでしょうか?

繰り返しますが、ジャンダーギャップ指数は教育分野の評価方法を見てわかるとおり、必ずしも正確な評価ができている訳ではありません。

それでも日本のジェンダーギャップ(男女格差)が深刻であることには変わりありません。課題の対策を考える上での参考情報になりますので、ぜひみんなで有効に活用して、日本のジェンダー平等実現に向けて取り組んでいきたいですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NPO法人ジェンダーイコール
代表理事 田渕 恵梨子

代表田渕がめざまし8…

引用元:FNNプライムオンライン

フジテレビ朝の情報番組「めざまし8」に、NPO法人ジェンダーイコール代表理事の田渕が出演させていただきました!
テーマは「家事格差」
若手歌舞伎俳優の尾上右近さんが「家事格差」の原因となる“名もなき家事”の調査隊となり、田渕の自宅でクイズにチャレンジ。あらかじめ潜ませた5つの「名もなき家事」を探していただきました。

5つの「名もなき家事」

引用元:FNNプライムオンライン

上記5つの家事をあっという間に見つけた右近さん。
歌舞伎の家柄に生まれて、現在ご実家暮らし。お母様が専業主婦で家事はほとんどされたことが無いそうです。
田渕が「家柄が家柄ですし、今後も家事を意識しなくても良いのでは?」とたずねたところ、右近さんは「親の世代まではそれでも良かったかもしれないけど、自分たちの世代は「家事できない」は誰にも相手にされないと思う。意識を変える必要がある。」と回答されました。素晴らしいですね!

家事は「自分ごと」として捉える

放送ではカットされてしまいましたが、右近さんと家事について色々と話しました。
家事は「家」の「事」と書くとおり自分の住む家の基本的な用事。
本来はお風呂に入ったり服を着替えたりするのと同じく、当たり前に「自分ごと」として捉えるものだと思うんです。自分ごとですから、男がやるものとか女がやるものとか決める話ではないと思っています。これは子どもの頃からの教育が重要ですね。

そして、人それぞれに服のセンスが異なるように、家事のやり方も人それぞれです。
同棲や結婚をするということは、価値観の違う他人と暮らすことです。相手のやり方を否定して自分のやり方を押し付けたり、相手に任せっきりにするような意識で良い関係が築けるとは思えません。
逆にお互いで相手を尊重しあい、相手を思いやる行動ができれば、素敵なパートナーシップを持てるでしょう。離婚率も減ると思います。
・・・といった会話をしていました。

スタジオでは“名もなき家事”チェック

スタジオでは、コメンテーターの橋下徹さんと司会の谷原章介さんが“名もなき家事”チェックにチャレンジ!

“名もなき家事”チェックリスト(監修:田渕)
①ベットを整える
②電気を消す
③トイレットペーパー・ハンドソープの補充
④手拭きタオルの交換
⑤お風呂の排水溝のゴミ・髪の毛の除去
⑥お茶を作り置きする
⑦ペットボトルのラベルをはがし捨てる
⑧ゴミ箱のゴミを集め、新しいゴミ袋をセット
⑨キッチンの水気を拭く
⑩裏返しの洗濯物を整える
⑪子どもの食べこぼし掃除
⑫子どもをパジャマに着替えさせる
⑬子どもの爪を切る
⑭子どもの持ち物の記名
⑮宿題や連絡帳のチェック
⑯消毒液の補充
⑰子どもの体温を測る
⑱子どものマスクの準備
⑲身の回り品の消毒
⑳自転車・車のメンテナンス(自転車の空気入れ、車のガソリン補給など)

さて、チェックリストの結果は???
橋下徹さん:②⑤⑦⑮⑳(20項目中5項目)
谷原章介さん:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑪⑫⑯⑲⑳(20項目中14項目)

ちなみに橋下さんのお子さんは7人、谷原さんのお子さんは6人だそうです。
チェックリストの結果は良い悪いではなく、「名もなき家事に気づくこと」や「パートナーに負担をかけていないか?」を考えるきっかけになれば良いと思っています。

家事育児分担可視化ツール「ハッピーシェアボード」

こちらは、当団体が開発した家事育児分担可視化ツール「ハッピーシェアボード」です。
最後にスタジオで紹介してもらう予定でしたが生放送で尺が足りなくなったようで実現できず・・・
という訳で、こちらで改めてご紹介させていただきます!

HowToハッピーシェアボード

ハッピーシェアボードは、家庭内タスクの「見える化」ツールです。
パートナーと一緒にこのツールを実践することで、「①家事分担のバランス整理」「②名もなき家事の認知」「③やりすぎ家事の見なおし」3つの効果が得られます。

ハッピーシェアボードにチャレンジ!

これまで多数の方にハッピーシェアボードをチャレンジしていただき、毎回ご好評をいただいています。
どんな形でハッピーシェアボードを実践するのでしょうか?
下記、2事例をご紹介させていただきます。

東京都北区議会議員 駒崎美紀氏、NPO法人フローレンス代表 駒崎弘樹氏ご夫妻

駒崎弘樹さん・駒崎美紀さんがハッピーシェアボード体験!〜前編〜
駒崎弘樹さん・駒崎美紀さんがハッピーシェアボード体験!〜後編〜

参議院議員 音喜多駿氏、江東区議会議員 三次ゆりか氏ご夫妻

おときた駿さん・三次ゆりかさんがハッピーシェアボード体験!〜前編〜
おときた駿さん・三次ゆりかさんがハッピーシェアボード体験!〜後編〜

いかがでしたか?ハッピーシェアボードに興味のある方は、こちらからお問合せください。

最後に・・・

放送終了後、TwitterやこちらのYahoo記事に多数のコメントが寄せられていました。視聴者の関心が高さがうかがえます。
日本はジェンダー後進国のレッテルを貼られて久しいですが、少しずつ国民の意識が高まっているのは間違いないと思います。
さらに意識が高まるよう、引き続きジェンダー啓発に力を入れていきます。

今回、フジテレビさんには大変貴重な経験をさせていただきました。
そして、「家事格差」を取り上げてくださり、本当にありがとうございました!

NPO法人ジェンダーイコール代表理事
田渕 恵梨子

主要先進国(G7)に…

 

えりこ
こんにちは。ジェンダーイコール代表の田渕恵梨子です。
先日、「ジェンダーギャップ指数2021」が公表されました。
日本は相変わらず主要先進国最下位です。。。
ジェンダーギャップ指数の公表は2006年から始まり、今回で15年になります。
当時からどのような推移をたどっているのでしょうか?
今回、主要先進国に限定して、2006年から2021年の推移を分析し、変化を検証してみました。
ぜひご覧ください。

ジェンダーギャップ指数とは?


「ジェンダーギャップ指数(The Global Gender Gap Index=GGGI」は、男女格差の度合いを示す指数です。
スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が、男女間の格差を経済・教育・健康・政治の4分野の指標を用いて測定し、毎年公表しています。

スコアは、男性に対する女性の割合で算出されています。
「1.000」に近づくほど、男女格差が少なく、「0.000」に近づくほど、男女格差が大きいことを示します。

日本の順位は?


2021年3月31日、「ジェンダー・ギャップ指数2021」が公表されました。
日本は156ヵ国中120位。
前回の「2020」では、日本は153カ国中121位で、過去最低を更新しました。
順位だけで見ると、今回は120位なので、1ランク改善しているように見えますが、参加国が前回より3ヵ国増えています。
ですので、割合で見ると前回よりも順位が後退したことになります。


15年前、日本は「79位」だった


ちなみに、2006年測定開始当初の日本の順位は115ヶ国中79位でした。
当時より参加国が41ヶ国増えているとはいえ、割合では10位ぐらい後退しています。

主要先進国(G7)のスコア推移


上記グラフは、主要先進国(G7)の全体スコアについて、2006年から2021の毎年の推移を表したものです。1番下の赤色が日本です。

繰り返しますが、スコアは、男性に対する女性の割合で算出されています。
「1.000」に近づくほど、男女格差が少なく、「0.000」に近づくほど、男女格差が大きいことを示します。
2021年の日本の全体スコアは「0.656」でした。

内容をよく見ると、2006年の全体スコアで、0.7以上の国と、0.7未満の国とで分かれていることがわかります。

0.7以上は4ヶ国(ドイツ、イギリス、カナダ、アメリカ)です。「優等生組」と名付けましょう。
そして、0.7未満の国は3ヶ国(フランス、イタリア、日本)です。こちらを仮に「落ちこぼれ組」とします。


上記は、2006年と2021年でのスコアの変化(伸び率)を表したものです。
伸び率のトップ2は落ちこぼれ組だったフランスとイタリア。どちらも2021年でスコアが0.7以上となり、優等生組に追いつきました。
日本だけが落ちこぼれのままです。

分野別スコアで見る「落ちこぼれ組3ヶ国」の変化


次に、落ちこぼれ組3ヶ国の分野別スコア(経済・教育・健康・政治)について、2006年と2021年の変化を見てみましょう。
2021年がピンク、2006年がグリーンです。


フランスは、教育分野のスコアは2006年の時点で1.000で「完全平等」でした。2021年も変わっていませんので横ばいです。
健康分野のスコアは2006年から若干下がっていますが、気にするレベルではないと思います。
経済と政治分野は大幅に改善されていることがよくわかります。


イタリアもフランスと同様、教育分野のスコアは横ばいです。
健康分野のスコアも同じく若干下がっていますが、こちらも気にするレベルではないでしょう。
経済と政治分野はフランスほどではないものの、大幅改善されていることがわかります。


日本。経済分野が若干改善されたものの、他の分野はすべてマイナスです。

まとめ


今回、主要先進国7ヶ国に注目して、データを分析・検証しました。
日本は、15年前と比べて全体スコアがたった0.01しか改善していないという残念な結果となりました。分野別スコアで見ても、経済分野以外はすべてマイナスです。

2006年、日本と同じ落ちこぼれ組だったフランスとイタリアは15年間でがんばって改善し、優等生組の仲間入りをしました。
なぜ日本だけが改善できないのでしょうか?
「そもそも改善する意思が無い」と捉えられても仕方ありません。
これって、ただの怠慢では?

改善策はいくらでもあると思います。しかし、15年前とほぼ変わらないジェンダーギャップのある状況下での即時改善は容易ではありません。
意識の変わっていない大人たちに「意識を変えよう!」と声高に叫んでも非効率です。
とはいえ、せめて、日本の未来を背負う次世代の若者たちに、我々大人の古い価値観を押し付けるのはやめませんか?それ位の意識は持ちたいものです。

そして個人的な意見ですが、改善策としては、教育分野を見直すことが最も重要だと考えています。この件については、来週公開予定の別記事にて詳しく書きましたのでそちらをご覧いただければと思います。

今回の記事を読んで、みなさまはどう感じられましたか?
コメント欄に感想をいただけるとうれしいです。


ありがとうございました!

「森喜朗氏不適切発言…

えりこ
こんにちは。東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議委員会にて不適切発言をされた件について、ジェンダーイコール田渕の見解を表明しておきたいと思います。

発言が多くて時間のかかる会議は問題?

森会長は、女性理事を増やすJOCの方針に対する私見として、以下の発言をしたとされています。

  • 女性理事を選ぶっていうのは文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。
  • ラグビー協会、今までの倍の時間がかかる。女性は今、5人か。女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それで、みんな発言される。
  • 女性の数を増やしていく場合は、この発言の時間もある程度は規制をしておかないとなかなか終わらないので困る、と誰かが言っていた。
  • 私どもの組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんなわきまえておられて、みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりですから、お話も的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている

これを読んで、女性蔑視発言であることは間違いありませんが、「そもそも森会長ご自身は、何を問題視しているんだろう?」と、疑問に感じました。

確かにダラダラ議論が長引くのは考えものですが、もしそんなことが続くようであれば、長引かないように会議ルールを決めれば済む話です。そもそも会議において発言が多いことは喜ばしいことであり、むしろ発言が無さすぎて結論が出ずに長引く会議だってあるはずです。
森会長は、「わきまえてもらう」ことに居心地の良さを感じる方なんだと思いますが、わきまえる社会に問題があるからこそ、多様性が注目を浴びているのです。司馬遼太郎の「峠」によると、江戸時代の武士たちで行われる藩会議などでは、みんながわきまえすぎて結論が出ずにダラダラ会議が続くことはよくあったそうですよ。江戸時代まで遡らずとも、現代の日本企業において無駄な会議が多いという声はよく聞くと思います。建設的な議論の向き不向きに性別は全く関係ありません。
むしろ森会長の周囲にいる方々が同質的すぎて、全く多様性に欠けているのでは?それこそ大問題です。

要は時代に合っていない

もう83歳のご年配者に対してあーだこーだ言っても無駄だということは誰もが痛いほどよくわかっていると思います。

世代によって、生きてきた時代の背景が違うんだから、価値観が違って当然です。

森会長は1937年生まれで現在83歳でいらっしゃいます。
幼少期は戦時中であり、青年時代は性別役割分担が明確だった高度経済成長期です。性別役割分担が不要になった現代の日本とは全く違う時代背景で生きてこられた方なのです。

つまり、森会長が問題なのではなく、「多様性」を大会ビジョンに掲げている今回の東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会のトップに森会長を選んでいることが大問題なのです。

結論

という訳で、私としては、価値観の違う背景の時代で育ってきた森会長個人を批判するつもりは全く無いです。むしろ長年にわたって政治家として日本を牽引され、また日本のスポーツ発展のために奔走されてきたご功績には尊敬の念しかありません。
しかしながら、今回のご発言は、どう考えてもオリンピック委員会会長としてはふさわしくありません。それとこれとは切り離して考える必要があります。

もうそろそろ潔くこの辺で辞任された方が良い。辞任されることで、他の政治家や権力者へのジェンダー差別発言の抑止力になるでしょう。それが功を奏し、日本の多様性発展につながる可能性も大いにあります。潔く辞任された方がかっこいいです。

ジェンダーイコール田渕は、森会長の辞任を希望します。


change.orgにて、「女性蔑視発言「女性入る会議は時間かかる」森喜朗会長の処遇の検討および再発防止を求めます」というオンライン署名活動が実施されています。
今回の件を問題に感じた方はぜひ、こちらで賛同表明をされてみてください。

一人ひとりの行動がより社会を変えます。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

NPO法人ジェンダーイコール代表理事 田渕 恵梨子

「性差(ジェンダー)…

えりこ
あけましておめでとうございます。今年もジェンダーギャップ解消に向けた活動に邁進します。本年もよろしくお願いいたします!
千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館にて、2020年10月6日-12月6日の会期で開催された「性差(ジェンダー)の日本史」展レポート。
前編中編に続き、今回はいよいよラストの後編です!「近世・近代」について学んだことをシェアします。

職業のジェンダー

近世には、商家や武家屋敷に奉公するにしても、最低限読み書きの能力を求められることが多かったそうです。江戸後期には、男女問わず手習い塾(寺子屋)に通う子どもの多い地域もありました。
という事で、教育は比較的ジェンダー平等だったようですが、職業はどうでしょうか?
近世後期は中世に引き続き、多種多様な「職人」の姿を描くという趣向が好まれたものの、中世とは異なり、「職人」は男性を指すという傾向が強まったそうです。
103種の「職人」を描いた図鑑「近世職人尽絵師(きんせいしょくにんづくしえことば)」はほとんどが男性で、女性は遊女、夜鷹、町芸者、岡場所の売女など、性的な要素の強い職種と、巫女、夫婦者(豆腐屋と鰻屋)のみで、手工業に携わる女性は皆無だそうです。
上記で「夜鷹(よたか)」という職業名が出ましたが、これは遊郭などで稼げなくなり、仕方なしに路上や川べりで客を捕まえてそば一杯の値段で身売りしていた遊女のことです。これは果たして職業なんでしょうか?おそらく夜鷹になりたくてなった人などいないはずです。
それを職人リストのような所に並べられるなんて、当人たちにとってはこの上ない屈辱だったろうと思います。(本当に近世職人尽絵師に夜鷹が紹介されているかは定かではありません)


話を戻します。
近世社会では、同じ職業に携わる者の集団が、身分集団として公的・政治的役割を負い、それぞれの集団は、通常、男性家長を中心とする小経営の家を単位として成り立っていたそうです。職人の集団もそのひとつであり、“職人といえば男性”という通念は、このような社会のなかで生まれたようです。


女髪結

ここで「女髪結」の話が興味深かったのでご紹介します。
女性がみんな髪を結うようになったのは、江戸時代に入ってからだそうです。それまでは貴族や武士の間でも垂髪(すべらかし)が一般的でした。
長い黒髪を垂らした「垂髪(すべからし)」 出典:ポーラ文化研究所

女性の髪型が垂髪から結髪に変わるにつれ、女髪結が登場するようになりました。多くの女髪結は、櫛などを布に包んで持ち歩き顧客を訪ねて営業したそうです。

しかし、天保改革により、「女は自分で自分の髪を結うべきだ」という理屈から、女髪結が取締りの対象となりました。
一体なぜ取り締まる必要性があったのでしょうか?
調べてみたらこちらに詳しい記事がありました。以下、引用します。

女髪結を禁止は、寛政七年(1795年)10月、老中松平定信が主導する幕府の寛政の改革にて、以下の理由により実施されました。

「以前は女髪結はいなかったし、金を出して髪を結ってもらう女もいなかった。ところが近頃、女髪結があちこちに現れ、遊女や歌舞伎の女形風に髪を結い立て、衣服も華美なものを着て風俗を乱している。とんでもないことだし、そんな娘を持つ両親はなんと心得ているのか。女は万事、分相応の身だしなみをすべきだ。近年は身分軽き者の妻や娘たちまでもが髪を自分で結わないというではないか。そこで女髪結は、今後は一切禁止する。それを生業なりわいとする娘たちは職業を変え、仕立て屋や洗濯などをして生計を立てるように」

質素倹約を改革の主眼としていた幕府は、近年の庶民女性の風俗は華美に流れており、その責任の一端は女髪結にあると判断したのだ。なお、この文面から、当時の女髪結はすでに女性中心の職業だったことがわかる。

改革を主導したこの老中、まるで、「風紀が乱れるからツーブロック禁止!パーマ禁止!茶髪禁止!学生たるものは云々!」とか言ってブラック校則を指導する教師のようですねw

しかし、厳しい取り締まりを繰り返しても一向に女髪結は姿を消さなかったそうです。
ではその後、どうなったのでしょうか?

さて、このような摘発をおこなったにもかかわらず、一向に女髪結は姿を消さなかった。江戸の町奉行所は、嘉永六年(1853)五月三日、町の名主たちに「女髪結之儀ニ付御教諭」という通達を発した。そこには次のようなことが記されている。

「かつて女髪結は厳禁されていたが、密かに調べたところ千四百人あまりもいることがわかった。そのままにしておけないのですぐに捕まえるべきだが、このたびは特別な計らいで吟味の沙汰にはおよばない。
中略
いかがであろうか。天保の改革の十年前と比べて、規制が驚くほど甘くなっている。それはそうだろう。だって千四百人も女髪結がいるのだから。つまり幕府の禁令も美しい髪型をして町を練り歩きたいという女性の願いにはわなかったのである。

女髪結いの摘発はいたちごっこだったようですね。しかし、よく女髪結が1400人もいることを調べ上げましたよね。すごい捜査力!あっぱれ!そして暇人w

「美しい髪型をしたい」という欲求は、次第に文化として定着しました。一度文化が定着すれば、いくら国が取り締まろうにもそう容易く根絶やしにできるものではありません。「欲求」というエネルギーは強大です。


さて話が変わりますが、本展示会では、「性の売買」についても詳しく紹介されていました。ジェンダーを考えるにあたり、非常に重要なキーワードです。
ぜひご紹介したいところですが、ものすごく長くなりそうなので別に機会に改めます。

明治国家とジェンダー

江戸時代、江戸城や大名屋敷など政治空間では、「表と奥」、「公と私」という区分のもとで、女性が奥に閉じ込められた時代と考えられてきました。ところが近年の研究によって、正妻や奥女中が果たす政治的権能の実態が解明されてきています。
しかし、明治期に入り、女性たちが発揮してきた政治的権能は否定され、女性は政治空間から排除されました。
明治国家は、政府と天皇の「家」の分離を原則としていた。これによって、女性は政治空間から排除されてゆくことになった。皇位継承については、当初は政府内にも女帝を容認する意見もあったが、法務官僚井上毅がこれに強く反対した。こうして、1889(明治22)年に制定された皇室典範と大日本帝国憲法は、男系・男性による皇位継承を明記した。この時期に整備された選挙制度や地方制度においても、女性の政治参加は否定されていた。
これを読んで「腹立たしい差別だ」と思う方がいるかもしれませんが、個人的には時代背景を考えると自然な流れのように思います。 約260年という長きに渡る天下泰平の世をもたらした江戸時代。これにより誰もが平和ボケし、幕府は弱体化の一途をたどりました。
そこで、迫りくる外国の脅威に危機を感じた一部の志士たちが立ち上がり、封建社会をぶっ潰して近代化改革を実現したのが明治維新です。

この一連の流れは女性の陰なる支えがあったにせよ、やはり功労者は男性の志士たちだと思わざるを得ません。

彼らは死にものぐるいで新しい国をつくりましたし、「自分たちがつくり上げた」という自負もあったと思います。

そこに「ジェンダー平等」という思想を取り込む余裕なんて全く無かったと思うのです。

私は良し悪しではなく、それが歴史である以上、感情に左右されず、時代を作ってくれた人々に感謝の気持ちを持つことが大事だと思っています。

ともかく、女性は政治空間から排除されました。そして今の時代につながる「男性主導の社会」が生まれました

近代の政治空間とジェンダー

それまでの近世において、「性差」は、政治空間や「家」の継承・運営に関わる女性を排除する絶対的な区分ではありませんでした。
男系であれば女性は天皇位につくことができました。
「家」の継承や運営をめぐって女性たちは「奥」での役割を担いました。
夫婦は別姓で、妻は生家の氏を名乗りました。

法律婚によって妻に夫の氏を名乗ることを決めたのは明治民法の規定が初めてです

明治における新しい政治システムは、性差に絶対的な意味をもたせ、女性を排除しました。

政治参加を男性に限定した「衆議院議員選挙法」(1889年明治22年)、女性の加入・政談集会発起の禁止を明記した翌年の「集会及政社法」、これを継承した「治安警察法」(1900年明治33年)は明確な「女性」の排除規定を備えました。

6世紀末に即位した推古天皇をはじめ、飛鳥、奈良、江戸時代において、計10代8人の女性天皇が誕生しましたが、明治時代に制定された旧皇室典範にて皇位継承者を「男系男子」に限ると定め、現行の皇室典範にも同様の規定が引き継がれました。

さらに明治民法の施行(1898明治31年)は女性を法の制度によって公的政治空間の対象外とし、労働をめぐっては性別役割という構造的な不平等のもとに置きました。

高等文官試験や代言人試験など、試験制度によるキャリア獲得競争において女性は参入資格を持ちませんでした。(女性初の弁護士誕生は昭和期)

近代の職業とジェンダー

近代国家は教育資格と職業をつなぐ制度設計から女性を排除しました。

新たな教育制度は職業獲得への期待を高めましたが、女子の高等女学校は男子中学校と同等の中等教育にとどまり、帝国大学を始め、多くの高等教育は原則として女性に解放されませんでした。
その一方で、現実社会の農業労働の場では、女性や子どもも重要な稼ぎ手でした。

大正期以降は都市部で「職業婦人」として電話交換手や女子計算員など技術職が注目されましたが、女性の雇用増加はジェンダーによる職務の固定のもとにありました。

また、明治期には官吏の試験制度が整備されましたが、受験資格は男性に限られました。とはいえ、戦前の官庁にも「非正規雇用の位置づけ」としての女性はいたそうです。特に逓信省は電話交換手や、郵便貯金の計算事務に多くの女性を雇用しました。一部は下級の官吏である判任官に登用されましたが、男性と比べて昇進には限界がありました。


工場労働とジェンダー

工場法施行後、大手工場ではある程度は福利施設が普及し、女工の待遇は改善へと向かったようです。従業員への日用品廉価販売も行われ、その中には月経帯(生理用品)もありました。

女工にとっては格安購入のメリットがある一方で、工場側にとっては、月経時の女工の労働能率を維持するという課題の解決策であった。これを工場側の提供した福利増進の一環とみなすのか、はたまた身体管理の強化とみなすのかについては、両面の評価がありうるだろう。
上記引用は、展示会にあった説明文ですが、少し含みがあり、個人的には違和感を覚えました。

企業として雇用者の労働能率の維持または向上を意識するのは当然のことだと思います。生理用品の廉価販売が身体管理の強化の意図を含むのは経営戦略であり、何ら問題は無いのではないかと個人的には思います。

コンピューターとジェンダー

第二次世界大戦の前後、軍事関係業務のため導入されたコンピューター(計算手)の多くは女性だったそうです。
彼女たちのほとんどは、専門的な教育を受けていませんでしたが、複雑な計算労働が単純化され、多くの女性が働く職場となっていきました。

戦後になると、オペレーターやキーパンチャーが女性の仕事の花形となっていく一方、プログラマーやシステムエンジニアは男性的職業とみなされるようになったそうです。

1969(昭和44)年に新設された情報処理技術者認定試験は男女問わず受験することができました。しかし、24時間稼働するコンピューターに合わせて働く労働環境と家事・育児は女性にというジェンダーバイアスが相俟って男性性が強まったそうです。

私自身、10年近くシステムエンジニアとして働いていた過去がありますが、思い返すと確かに圧倒的に男性が多かったです。
当時は子育てしていなかったので特に意識しませんでしたが、妊娠をきっかけにこの職から離れたのは、育児の両立が難しいと判断したためです。キャリアチェンジをしたことで今の自分につながっているので後悔はしていませんが、今は当時に比べて格段に環境が整っていますし、システムエンジニアやプログラマーこそ在宅ワークがしやすく、性別に関わらず仕事と育児を両立させられる職種ではないでしょうか。
セキュリティがどうとか勤務時間がどうとか反論もあるでしょうが、すべては企業の覚悟とやり方次第だと思います。

まとめ

さて、今回は思いのほか長くなってしまいました。

やはり現代に近づくと思いが強くなり、書きたいことが増えるものですね。

これまで見てきたように、現在の日本におけるジェンダーは明治時代に確立したと言っても過言ではありません。

明治は初めて日本人が日本人としての自覚をもち、諸外国と肩を並べる国づくりを目指した時代です。

日清・日露戦争では、せっかく自分たちの手で作り上げたばかりの新日本を属国にする訳にはいかないという意地と意気込みがあったからこそ、国民が力を合わせて必死に戦って勝利を掴むことができました。

当時の戦争は、今のようにボタン1つで相手を攻撃できるような技術は無く、すべて肉弾戦です。
男性でなければ戦えませんでした。一方で女性は家を守りました。
こういった性別役割分担が功を奏したからこそ日本は繁栄し、今のわたしたちがあると思うのです。

しかし時代は変わり、現代の日本のおいては旧来の性別役割分担が不要になりました。

性別に関わらず誰もが自分のやりたいことにチャレンジできる社会が到来
しています。

私たちの「あたりまえ」は時代と共に変化します。
人間とはどんどん変化する生き物です。

その変化に対応できない人たちは、歴史が何度も繰り返しているように淘汰されるでしょう。

昔は性別役割分担が必要だった。しかし今は不要になった。ただそれだけの話です。

「引き継ぐべきものと捨てるべきもの」。視野を広げ、時代の変化を敏感に察知して、取捨選択をする。

いつの時代も、この価値観が生き残るためのキーワードだと思います。

ありがとうございました!

「性差(ジェンダー)…

えりこ
千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館にて、2020年10月6日-12月6日の会期で開催された「性差(ジェンダー)の日本史」展に行ってきました。
会場は撮影NGのため、画像を共有することはできませんが、テキストで概要をお伝えできればと思います。
今回は中編です。 前編はこちら



中世:政治空間と女性

平安時代以降、朝廷の政務の場は男性のものとなりました。

行事の際には多くの女房(上級女性官人)が随行したものの、女房たちの居場所は「御簾(みす)の内側」であり、女性は政治空間において「見えない」存在だったそうです。

 

律令官僚制は女性を政治・行政から排除するものであった。
女性官人は「後宮十二司(こうきゅうじゅうにし)」と呼ばれる内廷官司に編成され、官位を得て朝廷で働く道は残されたものの、平安時代の10世紀中頃までに後宮十二司は解体されて、天皇に近侍する上級女性官人(女房)と、それぞれ特定の業務にあたる下級女性官人(女官)とに再編された。
上級女性官人は、官位は有しているものの、天皇との「直接的人格的主従関係」を色濃く帯びた存在だったそうです。私は「お付き人」と解釈しました。

下級女性官人は、殿司(でんし/灯火の管理など)、掃司(そうし/格子の上げ下げなど)、闈司(いし/取り次ぎなど)、采女(うねめ/天皇食膳の運搬)、女嬬(雑用)といった奉仕に従事していたそうです。私は「お手伝いさん」と解釈しました。

要は、女性も官位はあるものの直接的な政治・行政からは排除されたということです。



貴族社会における「女の幸せ」

一条天皇の皇后藤原定子(ふじわらのていし)に仕えた女房清少納言が、摂関時代の貴族社会における「女の幸せ」観を述べた文章が残っているので、その現代文の解説を紹介します。



官位の高さが何にも勝る価値基準となるのは宮廷社会の基本的通年であるとして、男は官位があがっていくにつれて社会的に重んじられもするのに対して、女が高い官職・位階に就けるのは典侍や三位に叙される天皇の乳母くらいのもの。したがって官位を得ることなど目指さず、受領(諸国の長官、莫大な蓄財が可能だった)の奥方になって夫と任国に赴き、裕福に暮らすことが並の家柄の女にとって最上の幸せとされているが、それより玉の輿に乗って生んだ姫君が皇后になるのが最高というべきだ。
いかがでしょうか?要は

女は仕事で上を目指すのではなく、高収入の男と結婚して夫の赴任先に帯同し、将来的に娘が玉の輿の乗ってくれたら最高だよね

と言っているのです。

ひと昔前、バブル時代に女性が結婚相手の条件として、高収入・高学歴・高身長の「三高」を求め、夫の海外赴任に帯同して駐在妻になることが「女の幸せ」と言われていた頃となんら変わらないように思います。

ジェンダー格差是正の活動をしている私にとって、このジェンダー感が1000年以上続いていたのかと思うと絶句です。



中世の家と宗教

次に、「中世の家と宗教」について見ていきましょう。
律令官僚制が確立してからは、身分や階層を越えて、父系的な「家」が形成されていきました。



中世には、身分や階層を越えて、父系的な「家」が形成された。夫婦の関係や妻の役割が重視される中で、夫を亡くした後家はその菩提を弔いつつ、子どもたちを指揮する権限を持ち、家の代表者として社会的に認められる。他方、次第に制限されながらも、中世の女性には財産の所有・管理が認められていた。

 

この頃は、女性にも財産権がありましたが、鎌倉後期には「所領の分散化を防ぐ」といった目的で、嫡子単独相続が広がるなど、武家における女性の地位は次第に変化していったそうです。



仏教会にみる女性差別観の受容と深化

仏教には元来、

女性差別的要素が含まれていたそうです。

中世の旧仏教諸宗、及び新たにひらかれた諸宗においても、女性は五障三従(ごしょうさんじゅう)の罪を負うという「女人罪業観(にょにんざいごうかん)」が広く共有されていった。
仏教経典のひとつ「法華経」(提婆達多品(だいばだったぼん))にみえる龍女成仏の物語には、女性は梵天王(梵天王)、帝釈(たいしゃく)、魔王(まおう)、転輪聖王(てんりんじょうおう)、仏身の5つにはなれない「五障」の身であるとの説に対し、八歳の龍王の娘がたちまち「変成男子(へんじょうなんし)」して、成仏したとある。

 

ひどい女性差別でびっくりしますが、救いは曹洞宗の祖師道元のように、きっぱりと男女の罪業の差異、女人結界(女性が聖域に入ることを禁じる)を批判した宗教者もいたことです。

しかしながら、後の時代になると、いずれの教団も伝道に際し、

女性を救われがたい劣った存在

とみなす差別的思想を背景に、変成男子説や女人往生・成仏論(女性は往生成仏できないという考え)を盛んに持ち出し、女人救済を唱えたそうです。

 

平安時代になると、社会が男性中心となり、家父長的な家が貴族階層で成立するにともない女性差別観が立ち現れ、中世にかけて、女性は男性より罪深いという女人罪業感が広まった。

 

また、中世後期には、

出産や月経によって流れる血が、女性の堕地獄の原因

と考えられるようになり、戦国期を経て江戸時代には、血の池地獄からの救済を眼目とする「血盆経(けつぼんきょう)」に対する信仰が広まったそうです。
生命を誕生させるために機能している「月経」がこんな邪悪な扱いをされるなんて・・・

もしタイムマシンがあれば、医師や専門家にこの時代に行ってもらって、「生理にしくみ」についてプレゼンしていただきたいものです。

こちらは絵巻「病草紙」で有名な肥満の女(部分)です。
高利貸しで成功を収め富者となった「女」が美食を貪ったために、支えがなければ歩けないほどの肥満(=病気)となっている様が描かれています。



そばに授乳する健康的な身体の「母」の姿を対照的に描くことによって、「女」に割り振られた社会的役割の逸脱を暗示する。

 

仏教における女性差別は、女性の身体に向けられるまなざしや描かれ方にも影響を及ぼしています。



女性の身体は、その仕草、髪型や乳房の形状、着衣の有無や種類、着こなしなどによって表現されてきた。女性表象は、一面において彼女たちの労働を含む日々の暮らしの実態を伝える。だが他方で、女性を劣ったものとみなし、恐れる男性の意識によって作りだされ、差別を強化した側面があったことは見逃せない。

 


ジェンダー区分について、前編の「古代」ではあからさまな違いは見られなかったものの、今回の「中世」では、政治や宗教による女性差別によって確立されていく様子がわかりました。

興味深いのは女性特有の「月経」を女性差別の標的にしている点です。「出産や月経によって流れる血が、女性の堕地獄の原因と考えられるようになった」とありましたが、もしかしたら無知ではなく、確信犯だったかもしれません。もはや今となってはどちらでも良いですが、問題は1000年以上の時を経て、いまだに日本では政治・経済におけるジェンダー格差が存在しているということです。
この歴史を繰り返さないためにも、やはり今こそ偏見を無くし、ジェンダー格差の無い社会の実現が必要だと感じました。



今回はここまで

次回は後編として、「近世・近代」について学んだことをシェアしたいと思います。お楽しみに!

「性差(ジェンダー)…

えりこ
千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館にて、2020年10月6日-12月6日の会期で開催された「性差(ジェンダー)の日本史」展に行ってきました。
会場は撮影NGのため、画像を共有することはできませんが、テキストで概要をお伝えできればと思います。
今回は前編です。

古代から近代まで全7章の展示

会場は以下のような章立てで展示されていました。
第1章 古代社会の男女
第2章 中世の政治と男女
第3章 中世の家と宗教
第4章 仕事とくらしのジェンダー ー中世から近世へー
第5章 分離から排除へ ー近世・近代の政治空間とジェンダーの変容ー
第6章 性の売買と社会
第7章 仕事とくらしのジェンダー ー近代から現代へー

古代社会:卑弥呼の時代はジェンダー格差がなかった!?

日本の歴史で女性リーダーといえば邪馬台国を統治した「卑弥呼(ひみこ)」を思い浮かべる方が多いと思います。当時のジェンダー感はどのようなものだったのでしょうか?

 

魏志倭人伝は、倭の政治集会「会同」に男女が参加したと記す。
小国の首長たちが男王をたててうまくいかなかったので、次には卑弥呼を「共立」して王にした。考古学の成果によると、この頃から古墳時代にかけて、男女の首長が各地にいたらしい。
男女の政治参加があたりまえの社会で、男女の首長が卑弥呼を王に選んだ。
6世紀半ばから8世紀半ばの皇位継承は女性が多い。

展示パネルにはこのように書かれていました。

 

邪馬台国時代には、男女の性別役割の観点があまりなく、首長は男女に関わらず適任者が選ばれていたようですね。

古墳時代:前期までは女性の首長が多く存在したものの中期以降は女性の地位が大きく変化

前方後円墳の時代は、女性首長が数多く存在したそうです。実際のところ弥生時代の後期(一世紀後半)から古墳時代前期(四世紀)にかけて、女性首長と考えられる人物は一般的に存在したとのこと。

 

しかし、古墳時代中期になると女性の地位が大きく変化し、前期とは異なり女性首長の割合が急速に減少したようです。

 

韓半島をめぐる軍事的緊張が背景にあり、武器・武具の副葬が重視されようになる。女性首長は軍事的緊張により姿を消していったと考えられる。しかし、中期以降においても中小規模の古墳には女性首長の埋葬は引き続き認められる。

これはジェンダーの歴史において見逃せない変化ですね。

 

軍事的緊張のきっかけにより、男女の分業化が進んだのです。

 

律令期:ジェンダー区分の確立

律令国家が成立すると、衣料生産において重層的な男女の分業化が進んだそうです。

 

律令国家が成立すると、衣料生産において重層的な男女の分業化が進む。高級な絹織物の織成に男性が従事する一方、平織りの絹や麻布も、成人男性が負担する税として国家に納めることが義務づけられていたが、実際に織ったのは、生活のなかで腰機の技術を保持していた女性たちであった。

7世紀末以前の系譜は男女を明確に区分していなかった

とはいえ、7世紀末以前の系譜は、のちの戸籍のように男女を明確に区分する父系系譜の異なる独特の様式で書かれていたそうです。

 

「娶いて生む子/児(みあいてうむこ)」という定形句で、父と母を相称的に記載する。天皇の系譜も男女の判別がない「王」号で記されていた。
その基盤には、父方母方双方の一族と関係を重視する、当時の親族関係のしくみがあった。

展示パネルに

「社会の全成員を男と女に二分し、異なる役割を定める制度は、歴史の所産にほかならない。」

と書かれてあったのが印象的でした。

 

今回はここまで

次回は中編として、「中世」について学んだことをシェアしたいと思います。お楽しみに!
中編はこちら

「ジェンダーイコール…


あけましておめでとうございます。
ジェンダーイコール理事長の田渕恵梨子です。

いよいよ2020年。オリンピックイヤーですね。
夏頃の東京は、外国人観光客であふれかえると思います。
せっかくですので、息子たちと一緒にたくさんの外国人と関わって、多様性の感覚をアップデートしたいと思います。
本年もよろしくお願いします。

さて、ジェンダーイコールでは東京都北区のご協力を賜り、「令和元年度北区地域づくり応援団事業」の1つとして、ジェンダーイコールハンドブックを作成しました。
副理事長 篠原くるみがデザインから構成まで全てを監修した魂心の力作です。
理事の大井由美も製作に関わってくれました。イラストは彼女のお手製です。
才能あるメンバーに囲まれて、本当に心強い限りです。

目次はこのようになっています。


「ジェンダーバイアス」とは、男は仕事、女は家庭といった固定観念に代表するような、男女の役割のイメージによる偏見を指します。




2015年9月の国連サミットで採択された国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた、持続可能な目標である「SDGs」。
17ある目標の1つに「ジェンダー平等」があります。
ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図るという目標です。

12月に、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数2019が発表されました。ジェンダー・ギャップ指数とは、世界の各国の男女間の不均衡を示す指標です。日本は前年の110位から順位を下げて153カ国中121位でした。先進国としては、最下位をずっと更新し続けています。
ここ最近、東京ではあらゆるところで「SDGs」のワードやポスターを目にします。
国を挙げて、SDGsに取り組んでいるにも関わらず、目標の1つである「ジェンダー平等」は全く実現できていません。
それどころか、ジェンダー・ギャップ指数により、国際社会から日本はジェンダー不平等の国であるとレッテルを貼られているのが現状です。

日本のジェンダーギャップがこれほどまでに順位が低い要因の1つとして、間違いなくジェンダーバイアスが挙げられます。
では、我々はいつ、どこで、どのように、ジェンダーバイアスが刷り込まれているのでしょうか?当パンフレットでは、この点について、わかりやすく解説しています。

すでに、お茶の水女子大学のジェンダー研究所や東京家政大学の女性未来研究所の先生方が興味を持ってくださり、早速授業で使っていただいています。

さらに、北区教育委員会のご協力を賜り、北区内公立中学校の全生徒にも配布しました。

当パンフレットは、下記に設置してあります。
遠方のお住まいの方は、お問い合わせフォームからご連絡をいただければ、郵送します。ぜひお手にとってご覧いただけると幸いです。

【北区内設置場所】
・北区男女共同参画活動拠点施設「スペースゆう」
・児童館
・子どもセンター
・図書館
・区民事務所
・文化センター
・育ち愛ほっと館
・NPOボランティアプラザ

【その他】
・東京ウィメンズプラザ
・お茶の水女子大学 ジェンダー研究所
・東京家政大学 女性未来研究所
・他区男女共同参画センター

「女性活躍」はキモチ…

えりこ
異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が「マッシュアップ」することで、新しいネットワーク、新しい一歩、新しいビジネスを創出できる化学反応を促すカンファレンス「MASHING UP」。
東大2019年度入学生の祝辞で話題になった上野千鶴子さんがゲストスピーカーのセッションを聴講してきました。

「女性活躍」はキモチワルイ? – 新しい言葉をみつけよう

このセッションタイトル。私自身も普段から周囲に「女性活躍」という言葉が嫌いだと伝えています。
行政や企業が叫ぶこのワードの裏に、女性には仕事も家事も育児もがんばってもらいたいという裏メッセージが見え隠れするからです。
さて、上野さんは当セッションでどのような発言をされるのでしょうか。

「ダイバーシティ」は男女均等を口にしたくないオッサンが広めた!?

「男女均等」と「ダイバーシティ(多様性)」は基本的に違う。それなのに「男女均等」や「男女平等」という言葉を口にしたくないオッサンたちがダイバーシティという言葉でごまかそうとしている。上野さんはそう断言されました。
内閣府男女共同参画局の用語集にある「ダイバーシティ」の説明文には、

性別や国籍、年齢などに関わりなく、多様な個性が力を発揮し、共存できる社会のことをダイバーシティ社会といいます。

とあります。
確かに「多様性」という言葉は聞こえが良いですが視点が男女から逸らされます。視野を広げて男女平等の濃度を薄めているように見えますね。

男女雇用機会均等法は「テーラーメイド」

上野さんの仲間の研究者である大沢真理さんは、均等法を「テーラーメイドの法律」と呼んだそうです。テーラーメイドとは「紳士服仕立て」の事。自分の身の丈に合わない紳士服を着て男と同じように振る舞うしか企業では生き延びていけないという意味です。上手い表現ですね。
当セッションのモデレーターであるビジネスインサイダージャパン編集長の浜田敬子さんは、自分自身がそのように生きてきたことを反省していると仰っていました。
そしてもう1人のゲストスピーカーである若手代表の石井リナさんは「今の世代も同じような価値観が再生産されている。自分が勤めていた会社は男性化した女性しか上におらず、同じような働き方をしなければいけないというマインドがある」と話しました。

「男性化した女性」って何?

ここで、私の意見を言わせてください。
「男性化した女性」って何でしょうか?
仮に「男性化した女性」というロールモデルがあったとしても、ただの選択肢の一つです。
現代社会では本当に多種多様な仕事や働き方の選択肢があります。選択肢が一つしかないと思うのであれば、それは「社員病」です。会社というものは、その箱の視点でしか物事が見えづらい環境になるものです。自分の視点が狭いことを棚上げして、自分に合わないロールモデルを指差し、「働く女性とはこういうものだ」と決めつけて諦めるようでは、そもそもその人の成長は見込めないでしょう。
今の日本女性に足りない部分は、「自分自身で新しいロールモデルを作り出す」という強いリーダーシップです。昔の時代とは訳が違います。手段はいくらでもあるはずです。

ゲストスピーカーの秋田さんはこう続けました。

「飲み」と「タバコ」と「ゴルフ」。男性の助け合いの場であるこれら輪の中では、重要な情報交換の場になっている。この輪の中に入れない女性は疎外されてしまう。その積み重ねが女性のハンデになってしまう。

果たしてそうなのでしょうか?
そもそも、「飲み」、「タバコ」、「ゴルフ」は男性で得意な人が多い傾向にあるコミュニケーションなだけです。女性だってこの選択肢を選べるし、嫌であれば他の選択肢を作れば良い。今はそれができる世の中です。
「誰とつきあうか」を意識し、「信頼関係を構築」すれば、仲間同士であれば、重要な情報は共有されると思っています。それができないような相手は、そもそも仲間ではなく、あなたの価値に気づかないようなレベルの人です。
クライアントとのコミュニケーションであれば、確かに「飲み」の手段は有効です。私もよく会食には参加するのでよく分かります。
私はタバコを吸いませんし、ゴルフもやりませんが、やればそれなりに世界が広がるんでしょう。
でも、それ以外のコミュニケーション方法だっていくらでもあると思うのです。

今、ここにいる人たちは日本を変えたい人たちです。ですが、変える力のない人たちです。

以前、カルビー松本会長が放たれた言葉だそうです。誰に向けた言葉かはわかりませんが、今あなたは「女性に向けた言葉」として思い浮かべませんでしたか?
これがジェンダーバイアスです。そして恐らく女性に向けた言葉なのでしょう。
松本会長がおっしゃるとおり、変える力が無ければ日本は変わりません。
日本は圧倒的に女性のリーダーが不足しているのです。

強制力を持たない「クオーター制」で社会が変わった例はない

浜田さん:以前政府は、女性管理職の目標数を挙げていたが、いつの間にか引っ込んでしまった。これはどういうことか?

上野さん:引っ込んだんじゃない。経営者団体に引っ込めさせられた。自民党は先の参院選で、2018年に施行された候補者男女均等法を全く守る気がなかった。立憲民主党45%に対して、自民党は15.7%。やる気がない。
はっきりわかっているのは、強制力を持たない「クオーター制」で社会が変わった例はないということ。
今私たちが知っているジェンダー先進国と呼ばれるフィンランドや北欧諸国を見たら、「強制力を伴うクオーター制なしで変化した社会はない」。
故に強制力を持って数を増やすことは絶対に必要だと思っている。

若い女性自身が今の男性社会に過剰適応してしまっている。

浜田さん:私自身も過渡期には数が必要だと思っているが、それを言うと周りの女性から「それは上げ底ではないですか?」という意見が出てくる。若い人の自信のなさが印象的。男はさんざん上げ底されてきたんだから、女性がちょっと上げ底されて何が問題なのか。

石井さん:知人の女性経営者が「そういう風に数で決めてしまうことで、スキルの無い女性が上に立つことも私は不服」と言っているのを聞いてショックだった。女性自身が男性社会に適応してしまっている。

上野さん:おっしゃるとおり日本社会はこれまでさんざん男性が上げ底されてきた。女性が少し位上げ底されて何が問題なのか。今の企業は無能な男を守る組織。企業は無能な男の不良債権をいっぱい抱えているんだから、少々無能な女性の不良債権を抱えても良いではないか。

浜田さん:女性は若くても過剰適応してしまっている。管理職になった女性たちもその不安を抱えている。研修で「絶対自分より仕事ができないと思っている同期の男性が先に課長になってしまったらどう思う?」と具体的に言うと初めて顔色が変わる。
漠然と考えてるから「私はもしかしたら能力がないのかも」と思ってしまうんだと思う。いかに男性が自然に管理職になってきたのか、女性の置かれている立場がいかに差別されているのか、もっと具体的に知る必要がある。

「女性活躍」以外の言葉は必要か?

浜田さん:例えば「人材の多様化」に言葉を置き換えることで問題は解決するのか?

石井さん:逆にふわっとしてしまって、女性の本質的なところは解決しない気がする。

秋田さん:Adobe社はかなり「人材の多様化」寄りになっている。男性女性だけでなく、LGBTも人種も国籍もいろんなものを含めて、それらが1つの場所にいて影響しあう事がものすごい活力になり生産性がアップしている感覚を肌で実感している。ただ、「女性」テーマで考えると問題は少しふわっとしてしまう。問題の本質が「男女」というところに日本企業がまだまだ追いついていない事を考えると、この表現に行くにはまだ早いのかなと感じる。

上野さん:「多様化」「ダイバーシティ」ははっきり言って、「男女均等」「女性活躍」を言いたくがないためのごまかし。一番良いのはこんな言葉が無くなってしまえば良いということ。だとすれば男女均等を実現しろと言う事をきちんと言っていかなければならない。

男性の育休取得義務化

上野さん:「ダイバーシティ」と言うと、テーラーメイドスーツで働ける人にとっては何の問題もない。しかしなぜ、「男女均等」では女性が働きにくくなるかというと、「家庭責任」がのしかかってくるから。なんで24時間も放っておいたら死んでしまうような赤ん坊の事を、女性は自分の人生の最優先課題になるのに、男性はならないのかが本当に理解できない。
育休法で「男性の育休取得義務化」が法案に出てきそうだが、やったら良いと思う。

浜田さん:さっきの「数」もそうだし、ある程度の強制力が必要。

秋田さん:自分は結構出張が多いので、夫や長男が腕まくりをして下の小さい2人を育てていたりする。そういう環境下に置かれると、男だから女だからというマインドセットが全くない。ある程度の強制力をもって、男性も女性と同じように家事や育児、あるいは介護の実践を実際にしてみる。そこに入っていくことによって、目指すべきものが見えてくると思う。

上野さん:そういう環境だとパパと子どもたちの関係が良くなると思う。そうでない環境の家庭では、子どもが10代になる頃までに子どもは父親を見放している。成人したらさらに父親から離れる。家事育児に関わらないツケは将来に絶対に回ってくる。

女性たちは夫との交渉が一番苦手

浜田さん:実は私も含め、会社の女性社員たちは会社には交渉できるが夫との交渉が一番苦手。夫を変えることが一番苦手だと思っている。夫に遠慮してしまう結果、ワンオペになっている。

上野さん:なぜ?夫のいない私にとっては全く理解できない。夫を変えられなくて、会社を変えられる訳がないんじゃないの?と思う。

浜田さん:そうなんだけど、みんなすごく遠慮している。夫に頼めない結果、会社を辞めていく。育休から復帰して1年経って辞めていく女性たちに理由を聞くと、「夫が長時間労働で、これ以上夫には(家事育児)を頼めない」と言う。夫に「転職して」とか「早く帰ってきて」というのではなく、自分のキャリアを譲ってしまう。

石井さん:自分の周りにもそういう女性が非常に多い。

上野さん:うちの卒業した元東大女子たちは、夫と交渉せずに諦めた結果、不平不満がなくなっている訳ではない。ここにこんなにどす黒く溜まっている。そして「もういいんです。私たち終わっているから。もう期待していないから」という。だから私は「そんな終わった男とこれからもセックスするの?」と聞く。

オススメは「家事育児の見える化」

秋田さん:外の仕事をこれでもかとやって帰ってきて、家に帰ってきても山のように家事育児のタスクがある。週末もある。これは、寝っころなりながら、ビールを飲みながら、テレビを観ながらだと見えない。悪意がある訳ではなく、実際に分かっていない。だとしたら、「あなた方(夫や子ども)が寝っころなりながら、ビールを飲みながらやっている間にこれだけのタスクが溜まっているんです。これを私がやっているんです」と見える化する。すると結構相手に衝撃を与えられる。
そして、「これを全部私1人で維持するには限界があります。一部アウトソースするのか、一部あなた方に担ってもらえないと持続できない。だからあなた方に担ってもらえませんか?」と公平な形にしていく。実際に自分はものすごく細かく見える化している。

上野さん:そこまでやらないと男は分からない位鈍感なの?(爆笑)

最後に

(聴講者からの「私の世代は男女含めて管理職に魅力を感じないんだがどうすれば良いか?」という質問を受けて)
秋田さん:権限をもつと、それまでと違った地平線が見えるようになる。何かやりたいことがある時に、管理職になることによって、誰にどうもっていけば通せるかもしれないという物が見えるようになってくる。それが大変だったとしても、やり遂げられた時に「テイクして良かった」と思える。自分で考えたことが、自分のチームで形にできていくことに楽しいと思える喜びの瞬間は絶対にある。面倒くさいこともあるが、そこにたどり着いてみないと見えない地平線が必ずある。だから男性であれ女性であれ、若い方がチャレンジすることを願っている。

石井さん:上の立場になると、そのレイヤーの人と対等に話ができるようになる。会えるようになる。交渉しやすくなるということを明確に感じる。そこはすごくメリットかなと感じる。

上野さん:みんな、権力の密の味を味わったことがないのねと思う。権力は善用にも悪用にもできる。私はこれでいいわとまとまってしまったら、それ以上の成長はない。やっぱり仕事を通じて自分が成長できる、何事かを達成する。この喜びは何者にも代えがたい。これは一旦経験したら味をしめる。達成感とか何事かを成し遂げたというポジションを女性たちが味わっていないからそういう発言に繋がるんだと思う。

浜田さん:同世代の男性の昇進欲が下がっているならチャンスだと思ってほしい。

田渕所感

私は常日頃から日本のジェンダー平等社会の実現に「女性のリーダーを増やすこと」が一番重要であると考えています。
カルビーの会長が仰るように、意思決定権を持たないと社会は変えられないのです。意思決定権のトップは政治です。その政治分野のジェンダーギャップ指数(2018年)のスコアは0.081でした。この指数は「1」が完全平等で「0」が完全不平等を表しますので、0.081はほぼ「完全不平等」という結果を示しています。要は日本の政治において、意思決定権はほぼ男性しか持っていないということです。これを覆すには、まず男性と対等に戦う女性のリーダーを増やすことが最重要課題だと考えます。女性に高下駄を履かせてももちろん良いと思いますが、幼少期からのジェンダー平等教育、リーダーシップ教育も並行して進めていくことが重要です。性別に関係なく、何でもチャンレンジできるという事を伝えて、自己肯定感を持ち、本質を見極める力を育むことが最も大切だと思うのです。

そして、それだけでは足りません。男性が当たり前に家事育児を担う社会を同時に作り上げる必要があります。これができて、初めて女性リーダーが増えるのです。

秋田さんの仰っていた「家事育児の見える化」は我々NPO法人ジェンダーイコールが開発した家事育児分担可視化ツール「ハッピーシェアボード」の必要性を改めて感じることができ、うれしく思いました。ちょうど来月12月8日(日)に北区男女共同参画活動拠点施設「スペースゆう」(王子駅直結北とぴあ5F)にて、「ハッピーシェアボードで「名もなき家事」をシェアしよう!」を開催します。近々イベントの告知ページを公開しますので、興味のある方はぜひ家族でご参加ください。

はじめて、ナマ上野千鶴子さんの講演を聴講することができ、光栄でした。
ありがとうございました!!!

東京都北区主催「ちょ…

田渕恵梨子
東京都北区主催「ちょこっと起業 ~私らしく始める、起業スタイルの見つけ方~」に合同会社とNPO法人の起業経験者としてゲスト登壇させていただきました。
当講座は、東京都北区が女性活躍推進事業の一環として、起業に興味がある女性を対象に、起業のコツやノウハウについてアドバイスする講座です。
開催場所は北区男女共同参画活動拠点施設の「スペースゆう」多目的室。定員は30名。
1回3時間の講座を全4回開催。4週に渡って中小企業診断士川口佐和子さんと税理士池田理世さんが、起業についてガッツリ指南してくれるという贅沢な内容になっています。
この講座がなんと無料!!!さすが北区、太っ腹です。
私は開催2日目、5/27(日)の講座に登壇してきました。

川口先生との対談

最初に私のこれまでの経歴について説明させていただきました。
その後、川口先生との対談形式で、合同会社の設立からその後のNPO法人の設立に至るまでの経緯、今後考えている新会社での事業構想についてお話しさせていただきました。

ジェンダー問題について話す時間をもらっちゃいました!

川口先生に、ジェンダー問題について話したいと相談したところ快諾していただけました。(川口先生ありがとうございます!)

まずはSex(生物学的性差)とジェンダー(社会的・文化的性差)の違いについて説明しました。

次に日本におけるジェンダー問題をいくつか紹介し、その中から今社会問題となっている「セクハラ問題」をピックアップして説明しました。
セクハラがなくならない理由に古いジェンダー固定観念が密接に関連しているという話です。

男性も女性も

高度経済成長期に確立したジェンダー固定観念から抜けきれておらず、当時の感覚がメディアや教育などを通して日本人に受け継がれてしまっています。
その結果、男性優位な固定観念から脱却できていない一部の男性が、職場の女性を対等に扱うことができず、性的対象にしか見れなくなっているのです。
これはセクハラ問題の要因の1つであり、日本が早急に解決しなければならないジェンダー問題だと考えています。そして、この問題を解決するには女性の自立が非常に重要だと考えています。

当イベントに参加されるような意欲的な女性にはぜひ知っておいてほしい内容のため、今回この話ができたことを非常にうれしく思います。

起業を考えている女性のみなさまに伝えたかったこと

ジェンダー話の後は、「行動すること」について話をしました。
行動することでチャンスに出逢えます。そしてチャンスが巡ってきたら取り組む姿勢について、私が考える5つのポイントを伝えました。

①チャンスが来たら即行動する。
 →即断即決が原則。少しでも「やってみようかな?」と思ったならやる。
②プロ意識をもつ。やると決めた時からプロ。
 →「私は素人なので」というワードは使わない。
③自分より上の層の人とつきあって視野を広げる。
 →労働者<経営者<投資家<資本家
④ギブ&ギブの精神で取り組む。
 →いちいち見返りを求めない。
⑤ここぞという時は意地でもやる。イニシアチブを取る。
 →目標達成の阻害要因は事前につぶしておく。

その後、「失敗を恐れないこと」、「日本人として生まれている時点で運があると思うこと」など、これから新しいチャレンジに挑もうとしている自分自身を奮い立たせるためにも、気持ちを込めて熱く語らせていただきました。

最後に

なんだかんだで1時間近く自由に話させていただくことができました。
このような機会をいただき、川口先生や池田先生はじめ、男女いきいき推進課の藤野課長、スペースゆうの職員のみなさまには心より感謝しております。
ありがとうございました!!!

当イベントは毎年開催されていると聞いています。中小起業診断士川口先生の起業ノウハウ、税理士池田先生の税務ノウハウを教えてもらいながら「やりたいこと」を事業にするためのヒントをゲットできる非常に有意義な講座です。
週末開催ですので企業にお勤めの方でも参加可能です。興味のある方はぜひ次回の開催時にご参加ください。
北区のホームページ、北区民に配布される「北区ニュース」等で告知されると思います。)