- えりこ
- 異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が「マッシュアップ」することで、新しいネットワーク、新しい一歩、新しいビジネスを創出できる化学反応を促すカンファレンス「MASHING UP」。
東大2019年度入学生の祝辞で話題になった上野千鶴子さんがゲストスピーカーのセッションを聴講してきました。
「女性活躍」はキモチワルイ? – 新しい言葉をみつけよう
このセッションタイトル。私自身も普段から周囲に「女性活躍」という言葉が嫌いだと伝えています。
行政や企業が叫ぶこのワードの裏に、女性には仕事も家事も育児もがんばってもらいたいという裏メッセージが見え隠れするからです。
さて、上野さんは当セッションでどのような発言をされるのでしょうか。
「ダイバーシティ」は男女均等を口にしたくないオッサンが広めた!?
「男女均等」と「ダイバーシティ(多様性)」は基本的に違う。それなのに「男女均等」や「男女平等」という言葉を口にしたくないオッサンたちがダイバーシティという言葉でごまかそうとしている。上野さんはそう断言されました。
内閣府男女共同参画局の用語集にある「ダイバーシティ」の説明文には、
性別や国籍、年齢などに関わりなく、多様な個性が力を発揮し、共存できる社会のことをダイバーシティ社会といいます。
とあります。
確かに「多様性」という言葉は聞こえが良いですが視点が男女から逸らされます。視野を広げて男女平等の濃度を薄めているように見えますね。
男女雇用機会均等法は「テーラーメイド」
上野さんの仲間の研究者である大沢真理さんは、均等法を「テーラーメイドの法律」と呼んだそうです。テーラーメイドとは「紳士服仕立て」の事。自分の身の丈に合わない紳士服を着て男と同じように振る舞うしか企業では生き延びていけないという意味です。上手い表現ですね。
当セッションのモデレーターであるビジネスインサイダージャパン編集長の浜田敬子さんは、自分自身がそのように生きてきたことを反省していると仰っていました。
そしてもう1人のゲストスピーカーである若手代表の石井リナさんは「今の世代も同じような価値観が再生産されている。自分が勤めていた会社は男性化した女性しか上におらず、同じような働き方をしなければいけないというマインドがある」と話しました。
「男性化した女性」って何?
ここで、私の意見を言わせてください。
「男性化した女性」って何でしょうか?
仮に「男性化した女性」というロールモデルがあったとしても、ただの選択肢の一つです。
現代社会では本当に多種多様な仕事や働き方の選択肢があります。選択肢が一つしかないと思うのであれば、それは「社員病」です。会社というものは、その箱の視点でしか物事が見えづらい環境になるものです。自分の視点が狭いことを棚上げして、自分に合わないロールモデルを指差し、「働く女性とはこういうものだ」と決めつけて諦めるようでは、そもそもその人の成長は見込めないでしょう。
今の日本女性に足りない部分は、「自分自身で新しいロールモデルを作り出す」という強いリーダーシップです。昔の時代とは訳が違います。手段はいくらでもあるはずです。
ゲストスピーカーの秋田さんはこう続けました。
「飲み」と「タバコ」と「ゴルフ」。男性の助け合いの場であるこれら輪の中では、重要な情報交換の場になっている。この輪の中に入れない女性は疎外されてしまう。その積み重ねが女性のハンデになってしまう。
果たしてそうなのでしょうか?
そもそも、「飲み」、「タバコ」、「ゴルフ」は男性で得意な人が多い傾向にあるコミュニケーションなだけです。女性だってこの選択肢を選べるし、嫌であれば他の選択肢を作れば良い。今はそれができる世の中です。
「誰とつきあうか」を意識し、「信頼関係を構築」すれば、仲間同士であれば、重要な情報は共有されると思っています。それができないような相手は、そもそも仲間ではなく、あなたの価値に気づかないようなレベルの人です。
クライアントとのコミュニケーションであれば、確かに「飲み」の手段は有効です。私もよく会食には参加するのでよく分かります。
私はタバコを吸いませんし、ゴルフもやりませんが、やればそれなりに世界が広がるんでしょう。
でも、それ以外のコミュニケーション方法だっていくらでもあると思うのです。
今、ここにいる人たちは日本を変えたい人たちです。ですが、変える力のない人たちです。
以前、カルビー松本会長が放たれた言葉だそうです。誰に向けた言葉かはわかりませんが、今あなたは「女性に向けた言葉」として思い浮かべませんでしたか?
これがジェンダーバイアスです。そして恐らく女性に向けた言葉なのでしょう。
松本会長がおっしゃるとおり、変える力が無ければ日本は変わりません。
日本は圧倒的に女性のリーダーが不足しているのです。
強制力を持たない「クオーター制」で社会が変わった例はない
浜田さん:以前政府は、女性管理職の目標数を挙げていたが、いつの間にか引っ込んでしまった。これはどういうことか?
上野さん:引っ込んだんじゃない。経営者団体に引っ込めさせられた。自民党は先の参院選で、2018年に施行された候補者男女均等法を全く守る気がなかった。立憲民主党45%に対して、自民党は15.7%。やる気がない。
はっきりわかっているのは、強制力を持たない「クオーター制」で社会が変わった例はないということ。
今私たちが知っているジェンダー先進国と呼ばれるフィンランドや北欧諸国を見たら、「強制力を伴うクオーター制なしで変化した社会はない」。
故に強制力を持って数を増やすことは絶対に必要だと思っている。
若い女性自身が今の男性社会に過剰適応してしまっている。
浜田さん:私自身も過渡期には数が必要だと思っているが、それを言うと周りの女性から「それは上げ底ではないですか?」という意見が出てくる。若い人の自信のなさが印象的。男はさんざん上げ底されてきたんだから、女性がちょっと上げ底されて何が問題なのか。
石井さん:知人の女性経営者が「そういう風に数で決めてしまうことで、スキルの無い女性が上に立つことも私は不服」と言っているのを聞いてショックだった。女性自身が男性社会に適応してしまっている。
上野さん:おっしゃるとおり日本社会はこれまでさんざん男性が上げ底されてきた。女性が少し位上げ底されて何が問題なのか。今の企業は無能な男を守る組織。企業は無能な男の不良債権をいっぱい抱えているんだから、少々無能な女性の不良債権を抱えても良いではないか。
浜田さん:女性は若くても過剰適応してしまっている。管理職になった女性たちもその不安を抱えている。研修で「絶対自分より仕事ができないと思っている同期の男性が先に課長になってしまったらどう思う?」と具体的に言うと初めて顔色が変わる。
漠然と考えてるから「私はもしかしたら能力がないのかも」と思ってしまうんだと思う。いかに男性が自然に管理職になってきたのか、女性の置かれている立場がいかに差別されているのか、もっと具体的に知る必要がある。
「女性活躍」以外の言葉は必要か?
浜田さん:例えば「人材の多様化」に言葉を置き換えることで問題は解決するのか?
石井さん:逆にふわっとしてしまって、女性の本質的なところは解決しない気がする。
秋田さん:Adobe社はかなり「人材の多様化」寄りになっている。男性女性だけでなく、LGBTも人種も国籍もいろんなものを含めて、それらが1つの場所にいて影響しあう事がものすごい活力になり生産性がアップしている感覚を肌で実感している。ただ、「女性」テーマで考えると問題は少しふわっとしてしまう。問題の本質が「男女」というところに日本企業がまだまだ追いついていない事を考えると、この表現に行くにはまだ早いのかなと感じる。
上野さん:「多様化」「ダイバーシティ」ははっきり言って、「男女均等」「女性活躍」を言いたくがないためのごまかし。一番良いのはこんな言葉が無くなってしまえば良いということ。だとすれば男女均等を実現しろと言う事をきちんと言っていかなければならない。
男性の育休取得義務化
上野さん:「ダイバーシティ」と言うと、テーラーメイドスーツで働ける人にとっては何の問題もない。しかしなぜ、「男女均等」では女性が働きにくくなるかというと、「家庭責任」がのしかかってくるから。なんで24時間も放っておいたら死んでしまうような赤ん坊の事を、女性は自分の人生の最優先課題になるのに、男性はならないのかが本当に理解できない。
育休法で「男性の育休取得義務化」が法案に出てきそうだが、やったら良いと思う。
浜田さん:さっきの「数」もそうだし、ある程度の強制力が必要。
秋田さん:自分は結構出張が多いので、夫や長男が腕まくりをして下の小さい2人を育てていたりする。そういう環境下に置かれると、男だから女だからというマインドセットが全くない。ある程度の強制力をもって、男性も女性と同じように家事や育児、あるいは介護の実践を実際にしてみる。そこに入っていくことによって、目指すべきものが見えてくると思う。
上野さん:そういう環境だとパパと子どもたちの関係が良くなると思う。そうでない環境の家庭では、子どもが10代になる頃までに子どもは父親を見放している。成人したらさらに父親から離れる。家事育児に関わらないツケは将来に絶対に回ってくる。
女性たちは夫との交渉が一番苦手
浜田さん:実は私も含め、会社の女性社員たちは会社には交渉できるが夫との交渉が一番苦手。夫を変えることが一番苦手だと思っている。夫に遠慮してしまう結果、ワンオペになっている。
上野さん:なぜ?夫のいない私にとっては全く理解できない。夫を変えられなくて、会社を変えられる訳がないんじゃないの?と思う。
浜田さん:そうなんだけど、みんなすごく遠慮している。夫に頼めない結果、会社を辞めていく。育休から復帰して1年経って辞めていく女性たちに理由を聞くと、「夫が長時間労働で、これ以上夫には(家事育児)を頼めない」と言う。夫に「転職して」とか「早く帰ってきて」というのではなく、自分のキャリアを譲ってしまう。
石井さん:自分の周りにもそういう女性が非常に多い。
上野さん:うちの卒業した元東大女子たちは、夫と交渉せずに諦めた結果、不平不満がなくなっている訳ではない。ここにこんなにどす黒く溜まっている。そして「もういいんです。私たち終わっているから。もう期待していないから」という。だから私は「そんな終わった男とこれからもセックスするの?」と聞く。
オススメは「家事育児の見える化」
秋田さん:外の仕事をこれでもかとやって帰ってきて、家に帰ってきても山のように家事育児のタスクがある。週末もある。これは、寝っころなりながら、ビールを飲みながら、テレビを観ながらだと見えない。悪意がある訳ではなく、実際に分かっていない。だとしたら、「あなた方(夫や子ども)が寝っころなりながら、ビールを飲みながらやっている間にこれだけのタスクが溜まっているんです。これを私がやっているんです」と見える化する。すると結構相手に衝撃を与えられる。
そして、「これを全部私1人で維持するには限界があります。一部アウトソースするのか、一部あなた方に担ってもらえないと持続できない。だからあなた方に担ってもらえませんか?」と公平な形にしていく。実際に自分はものすごく細かく見える化している。
上野さん:そこまでやらないと男は分からない位鈍感なの?(爆笑)
最後に
(聴講者からの「私の世代は男女含めて管理職に魅力を感じないんだがどうすれば良いか?」という質問を受けて)
秋田さん:権限をもつと、それまでと違った地平線が見えるようになる。何かやりたいことがある時に、管理職になることによって、誰にどうもっていけば通せるかもしれないという物が見えるようになってくる。それが大変だったとしても、やり遂げられた時に「テイクして良かった」と思える。自分で考えたことが、自分のチームで形にできていくことに楽しいと思える喜びの瞬間は絶対にある。面倒くさいこともあるが、そこにたどり着いてみないと見えない地平線が必ずある。だから男性であれ女性であれ、若い方がチャレンジすることを願っている。
石井さん:上の立場になると、そのレイヤーの人と対等に話ができるようになる。会えるようになる。交渉しやすくなるということを明確に感じる。そこはすごくメリットかなと感じる。
上野さん:みんな、権力の密の味を味わったことがないのねと思う。権力は善用にも悪用にもできる。私はこれでいいわとまとまってしまったら、それ以上の成長はない。やっぱり仕事を通じて自分が成長できる、何事かを達成する。この喜びは何者にも代えがたい。これは一旦経験したら味をしめる。達成感とか何事かを成し遂げたというポジションを女性たちが味わっていないからそういう発言に繋がるんだと思う。
浜田さん:同世代の男性の昇進欲が下がっているならチャンスだと思ってほしい。
田渕所感
私は常日頃から日本のジェンダー平等社会の実現に「女性のリーダーを増やすこと」が一番重要であると考えています。
カルビーの会長が仰るように、意思決定権を持たないと社会は変えられないのです。意思決定権のトップは政治です。その政治分野のジェンダーギャップ指数(2018年)のスコアは0.081でした。この指数は「1」が完全平等で「0」が完全不平等を表しますので、0.081はほぼ「完全不平等」という結果を示しています。要は日本の政治において、意思決定権はほぼ男性しか持っていないということです。これを覆すには、まず男性と対等に戦う女性のリーダーを増やすことが最重要課題だと考えます。女性に高下駄を履かせてももちろん良いと思いますが、幼少期からのジェンダー平等教育、リーダーシップ教育も並行して進めていくことが重要です。性別に関係なく、何でもチャンレンジできるという事を伝えて、自己肯定感を持ち、本質を見極める力を育むことが最も大切だと思うのです。
そして、それだけでは足りません。男性が当たり前に家事育児を担う社会を同時に作り上げる必要があります。これができて、初めて女性リーダーが増えるのです。
秋田さんの仰っていた「家事育児の見える化」は我々NPO法人ジェンダーイコールが開発した家事育児分担可視化ツール「ハッピーシェアボード」の必要性を改めて感じることができ、うれしく思いました。ちょうど来月12月8日(日)に北区男女共同参画活動拠点施設「スペースゆう」(王子駅直結北とぴあ5F)にて、「ハッピーシェアボードで「名もなき家事」をシェアしよう!」を開催します。近々イベントの告知ページを公開しますので、興味のある方はぜひ家族でご参加ください。
はじめて、ナマ上野千鶴子さんの講演を聴講することができ、光栄でした。
ありがとうございました!!!