「ジェンダー」というものを学び始めてもう少しで1年になる。そもそも私の専門は政治社会学であった。ではなぜ、1年前からジェンダーを学び始めたのか。それは、日本の政治分野における女性の比率が、他の先進国に比べて著しく低く、依然として、旧来の日本の制度や慣行が政治分野をはじめ、身近な日常生活の場でも蔓延っていることを目の当たりにしてきたからだ。
前半は多くの人にとって身近なSNSを例に、後半は政治と女性についての問題提起をしながら考えてみたい。
ネット上での情報の拡散と錯綜
近年のメディアは、政治家の失言を取り上げて世論を操作する傾向にある。報道された失言の内容を詰め込んだ記事や、それに対するあらゆる人の個人的見解はSNS上で拡散され、テレビで流された映像も同様に切り取られてSNS上で拡散される。特に、Twitterでのリツイート数はすさまじく、またたく間に日本中、そして世界中に発信されている。
テレビや新聞といった媒体を用いずに、SNSだけで日々の情報収集をしている人はどのくらいいるのだろうか?誰かのツイートに対して疑いの目を向けずに、そのまま鵜呑みにしている人はどのくらいいるのだろうか?ネット上の事実らしきものを裏づける根拠探しをしている人は、どのくらいの割合でいるのだろうか?
私はSNSの利用や、SNSでの情報収集を否定するつもりはない。ただ、正確な情報収集を行った上で、日々目の前を過ぎ去っていく膨大な話題に対して、自分なりの見解や疑いを持ってほしいと思う。「政治家はみんな嘘つきだ!」「政治家は何もしてくれない!」と、勝手に、一方的に決めつけてしまう前に。個人的には、自分の地元の政治家でもいいし、何となく気になっている政治家でもいいから、“推しの政治家”を見つけておくことをおすすめする。その人たちが日々何をしているのか、政治家ウォッチャーとして政治をみる目をやしなうのも一つの手だ。
政治家の発言にせよ失言にせよ、切り取られた部分がその場で起こった全ての出来事ではないことは、すでに多くの人は知っていることだろう。しかし私たちは、知らず知らずのうちに、指一本で確かかどうかわからない情報を別の人に流し、拡散するという行為に至っている、というのもまた事実である。時短や効率化といったものが重視されているとはいえ、「みんなが拡散しているから自分も拡散しよう」「いいねの数が多いから、とりあえず自分もいいねをしよう」といったSNSの使い方をしているならば、少し立ち止まってみてほしい。「この情報は本当なのか?」「誰がどの文脈で言っているのか?」ということを意識しながらSNSを利用しているだろうか。時間があるときには、リアルタイムで国会中継を見てみると面白いかもしれない。
失言によるジェンダー問題の浮上
現在進行形で、政治家やその関係者が失言を繰り返すことにより、(いまさら)ジェンダー問題が日本社会に浮上し、認知されるきっかけとなっている。より良い暮らしを実現させるために市民の意見を聴き、政策を実現していくのが、本来の政治家の活動であり仕事である。だが、ここ数か月の政治家や関係者の発言をニュースのなかで見聞きしていると、「政治家の仕事とは・・・?」という疑問が浮かび上がってくる。
「13歳のハローワーク公式サイト」の人気職業ランキング(2021年1月時点)によると、1位はプロスポーツ選手、2位は薬剤師、そして3位は、ここ数年で上位の常連となっているYouTuberだ。
人気職業ランキング(2021年1月)【13歳のハローワーク 公式サイト】
そして政治家はというと、62位の不人気状態となっている。今の政治家を見て政治を志そうとする若者が少ないのは無理のない話である。
きっかけは何であれ、ジェンダーに関する不適切発言が世間を盛り上げていることに変わりはない。遅ればせながら、「ジェンダー」そのものへの市民の関心は高まってきている。
性別に関係なく人間は平等であるにもかかわらず、一国の上層に位置する人物が女性蔑視の発言をすることは異常である。本来なら、世界の先進諸国と同水準のジェンダー観を持たなければならないし、ジェンダー教育が当たり前に行われていなければならないが、日本のジェンダーに対する水準は明らかに低いというのが現状である。
世間は女性の政治参画を期待しているのに
2019年9月、内閣府は「女性が増える方がよいと思う職業や役職」についての世論調査を実施した。
男女共同参画社会に関する世論調査 – 内閣府HP
このデータから、企業の管理職に次いで、国会議員・地方議会議員が、世間的にも求められている女性の職業であると言える。求められてはいるものの、なりたい職業ではない。求められてはいるものの、依然として日本では多くの女性が政治の現場に加わる機会が少ない。
多くの人が女性の政治家が増えることを期待しているにもかかわらず、なぜ実現しないのか。その理由の一つに、いわゆる「古い」日本の制度や慣行により、今日まで、女性とっては非常に参入しにくい構造のままの政治が維持されていることが挙げられる。さらには、政治を行う上層部の人間が女性の介入を許さない(「政治は男性が行うものだ」という、古すぎる考え方を曲げることができない?)のも現状だろう。
男性が中心となって行う政治は明らかに時代遅れである。女性が積極的に政治に関わっていく、女性ならではの経験を生かして、これまでになかった新たな政策を打ち出す。その環境を整えていくことがまさに、今の政治やひいては男性の政治家に求められているのではないのだろうか。残念ながら、「女性も頑張ってほしい」という声のみでは、女性が政治家になることは難しい。少なくとも、一定の男性(政治家)による支援は不可欠である。ただでさえ女性に厳しい社会のなかで、そして女性の参入が最も遅れている政治のなかにおいて、どんなに意欲があっても、女性のみで活動することには限界がある。そういった場面に出くわした男性(政治家)は、果たして女性に手を差し伸べてくれるのだろうか?これは、日本社会全体に通ずる問いかけでもある。
なぜ今の日本社会は女性に厳しく、男性が優遇されがちな環境になっているのだろうか。周知のように、男性が主体となって、政策、法律、制度をつくってきたからである。そこに女性が参入するのは、それほど難しいことなのか?女性の視点で社会を変えていくのは、それほど不都合なのか?なぜ男性主導で社会をつくろうとするのか?なぜ女性を飾り物として扱うのか?女性の会議が長いことの何が悪いのか?
多くの政治家や関係者の方々に問うてみたいことは、それこそ山のようにある。
紀本知都子
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍。政治とジェンダーを中心に学んでいる。
政治の意思決定の場における女性参画の機会が少ないことを問題視し、ジェンダー平等の観点から誰もが生活しやすい社会を目指して活動中。