こんにちは!篠原くるみです。
「アンペイドワーク(家事・育児などの無償労働)の分担」と「女性の経済・社会的エンパワーメント」の関係、そして、それらを取り巻く社会構造について考える、シリーズ全3回中の3回目です。
#1では、「男女の収入格差」に注目し、ジェンダーギャップの背景には「(家事や育児などの)アンペイドワークは女性がするもの」という前提が置かれていること、そして、それに付随する「女性は賃金労働を(そこまで)しなくてよい」という「期待値下げ」があることをお伝えしました。
#2では、性別役割分担が形を変えつつも受け継がれ続けている現在の社会構造について説明し、そこから抜け出すことは個人の努力では難しいことを説明しました。そして、それを踏まえた上で、性別役割分担のアンフェアさを直視し、女性を社会から排除することにつながる「期待値下げ」をなくす必要があること、そしてそれは誰にとっても無関係ではないということをお伝えしました。
今回は、わたし自身のアンペイドワークの分担についてご紹介し、どんな人でもジェンダーギャップの解消に向けたアクションを取ることができるというお話しをしたいと思います。
前回までの投稿はコチラ↓
アンペイドワークを考える#1 – 世界156カ国中120位!ジェンダーギャップを埋めるためのキーポイントは「女性への期待値下げ」
アンペイドワークを考える#2 – 性別役割分担から抜け出すのは超ハードモード!それでも「女性への期待値下げ」がどんな人にも無関係ではない理由
わたしにとっての家事分担とは、時間をフェアに分けること
2021年7月現在、わたしは配偶者(夫)、娘3人(小5・小1・保育園年中)との5人暮らしをしています。
夫とはアンペイドワークを 50/50 で分け合っています。コロナウイルスによる昨年の休校・自粛生活をきっかけに、土日も含め日毎にかっちりシフトを決める完全折半制になりました。
共有カレンダーアプリに希望日を入れて、2週間単位で7日ずつ担当します。「予定を入れたいので火曜と木曜代わってもらえませんか?」のような感じなので、「バイトのシフト」という表現がしっくりきています(無給)。
うちの場合は、「気づいた人がやる」「できる人ができる時に」といった抽象度の高いシステムでは何度も紛争になり(だいたいどちらも自分ばかりやっていると思っている)、約10年の紆余曲折を経てようやくこの形に落ち着きました。
ポイントは、家事をタスク別に分担するのではなく、時間をフェアに分けるという概念に辿りついたことだったのかなと思います。
みなさんの毎日は、AとBどちらで回っていますか?
A 24時間365日 − 仕事 = フリータイム(アンペイドワーク含む)
B 24時間365日 − アンペイドワーク = フリータイム(仕事含む)
学生さんや一人暮らしの方、お子さんがいない方は、Aという方が多いのではないでしょうか?
お子さんがいる家庭では、出産後にママがBに移行し、パパがAのままというパターンが多いのかなと思います。
まさしくうちの場合も、2人目の保育園入園(6年前)まで「朝〜保育園送り:夫、お迎え〜夜:妻」というよくある分担をしていて、わたしがB、夫はAでした。
その当時、夫はよく「家事も育児もやれるときにできるだけやっている」という主張をしていて、わたしにはどうしてもこれが納得できず…
(具体的には、育児関連のタスクの優先度が仕事より低いため、「やれるとき」「できるだけ」の範疇に収まらないとき、例えば「明日の朝会議が入ったから保育園の送りヨロシク」みたいなことが度々発生。こちらがお迎えを代わってもらいたくてもそんな急に&軽く依頼できないし、どうせ断られると思っているので親にお願いしたり、という感じでした。)
本当に言い争いも含めたくさん話し合いをしていたのですが、時間の使い方の概念がそもそも違うので、全く噛み合っていなかったなと思います。
私:「働き方に制約を受けるのはなぜわたしだけ?夫は独身時代とさして変わらないスタイルで仕事できていてズルい!!(嫉妬)」
夫:「家族のために一生懸命仕事をして、それ以外の時間で家事も育児もできるだけやっているのに、文句言われてしんどいな〜」
↑ここで起きていること、それは「性別役割分担への認識のズレ」です。
夫:「男は仕事」なんだから、自分のやるべきことは仕事を優先してやることと思っている。なぜ妻が怒っているのかわからない。
私:「仕事をするのに性別は関係ないのでは?”男の仕事”ってわたしのキャリアを踏み台にしてまでやることなの?2人の子どもなんだから、フェアに2人ともBに移行しようよ」が何を言っても伝わらない..!
…という感じでしょうか。一生交わらない平行線ですね。
粘り強い交渉の結果、時間の使い方の概念をお互い次のように合わせたうえで、アンペイドワークを折半することにしました。
C 24時間365日 − 仕事(定時) − アンペイドワーク(週あたり一人3.5日ぶん) = フリータイム
アンペイドワークを折半することで、以前の分担に比べてわたしの持ち分はかなり軽くなりました。一方で、夫は負担が増えたことになります。どう思っているのか聞いたことがなかったので、今更ながら本人に聞いてみました。
夫「家事や育児に参画することによって子供達から得られているパワーがあるから、むしろ全然プラスが大きい」
…!!!パワー!!!
あまりにも教科書通りすぎる回答だったのでもうちょっと聞いてみると、
- 初めは会社の人からどう思われるか不安だった
- 定時で帰る代わりに朝早く行ったりとか、その分大変だったこともある(これはわたしも全く同じです)
- 会社の人にお互い頑張っているところを見てもらえていたので、環境的に恵まれていたかもしれない(うちは社内結婚でした)
- 家事や育児をすることで絶対いいことがあるから、みんなやったらいいのに.. と思う
- 一方で、若い人に話を聞くと、育休を取ったり定時上がりすることに対して周囲の人に悪いなと思っている、そう思わせてしまう雰囲気がある
- 雰囲気を作るのは我々の世代のやることなので、ワークライフバランスのセミナーを受けている
そうなんだ、、ものすごい言語化&行動できていて素晴らしいですね。彼はイクボスになりそうですよ..!!
いま、うちでは家庭内で発生するアンペイドワークを「お互いやるべき”自分ごと”」という認識を共有しています。
結果的に持ち時間が同じになるフリータイムには、がっつり仕事をやってもいいし、副業、勉強、セミナー受講、ジムや美術館や映画館に行く、動画を見る、本を読む、寝まくる、何もしないなどなど、それぞれ自由に使える時間を持つことができています。
ソフト(感情)面では、「なんで自分ばっかり..」と感じていた時期よりも、子どもたちと過ごす時間や、家事の中でも好きなことをしている時間が楽しく貴重なものになりました。
「Bで全く問題なし!」「パートナーはAの時間配分でよくやってくれてるからじゅうぶんだよ」とお互いに思えているなら全然それでOKなんです。
ただ、パートナー間で時間配分の概念ズレ、性別役割分担への認識ズレがあると、いくら物理的に家事分担・家事シェアをしようとしてもあまり納得のいく結果にはならないのではと、自分の経験を通じて思うのです。
物理的な分担量はさておき、初期値は 50/50 にしませんか
さて、ここで自分の例を出して言いたかったことは、全ての家庭でアンペイドワークの分担を 50/50 にしなければならないということではありません。それぞれの家庭での納得感やベストバランスがあるはずで、そこに落ち着けばハッピーです。
ただ、性別という生まれ持ったどうにもならない属性を理由として、多くの家庭でアンペイドワーク分担の初期値に大きな偏りがあること、そしてそれをデフォルトとして受け止めている社会は、歪んでいるとわたしは思います。
わたし自身は、親が性別役割分担をしている家庭で育ちました。
両親はわたしと妹に「女の子だから..」という制限をかけたことは一度もなく、習い事や進路について「やりたい」と言ったことは全て肯定してくれました。幸運だったと思います。ジェンダー平等という観点で何かを伝えられたことはないし、母も父も特別その意識はなかったと思います。しかし、制限をかけずに育ててもらったおかげで、性別役割分担を強いてくる社会に放り込まれたときに「おかしい」と気付くことができ、現状打破のために夫や上司に交渉する力を持つことができたと思っています。
一方で、アンペイドワークについては特に意識することなく育ち、結婚した当初はなんとなく「自分がやるもの」と思っていて、数多くの選択ミスをしました。そして、そのままズルズルと社会構造へ飲み込まれてしまった時期がありました。選択ミスとは、「そんなに望んでいない」ことを「女性は/母親はこうするものだから」と変換して選んでしまったことです。今思えば、親に正当に期待をしてもらって素直に頑張ってきた自分と、性別に期待される役割イメージとのギャップで、摩擦を起こしていたんですね。
「期待値下げ」をなくすには、女の子へのエンパワーメントだけでは不十分です。
人生で起きる数々の選択をポジティブでフェアなものにするために「アンペイドワークを分けあう」意識がどうしても必要になってきます。
#2
でお伝えした通り、アンペイドワークをめぐる社会構造から抜け出すことは容易ではありません。家庭の問題や個人の問題として矮小化せず、社会全体で、問題に気づいた人から手を取り合い協力していく必要があります。
アンペイドワークのほとんどは、生まれ持った性差から離すことのできないものではありません。
それから、アンペイドワークも賃金労働も、どちらも人が生きるために必要なことと捉えれば、(心と身体に無理のない範囲という条件で)どんな人でもやるべきことで、誰にでもやる権利と義務があるはずです。
もちろん、さまざまな環境で「アンペイドワークを分け合う」ことが難しい場合もあるし、積極的な選択の結果として性別役割分担をしている家庭もあるでしょう。ですが、自分が性別役割分担の解消を実践できない/しないからといって何もできないということはなく、子供達に何を伝えていくのかが大事だと思います。
女の子には「必要以上にアンペイドワークを担う必要はないし、それを前提として将来を決めなくてよい」ということ、それから男の子には、「女性があなたの分のアンペイドワークをしてくれることは当然ではない」ということ、そして全ての子どもたちに「パートナーを見つけるなら、その人とフェアに協力し合える未来を描こう」と伝えていければいいなと思います。
『世界を変えた50人の女性科学者たち』
すごくエンパワーしてもらえると同時に、女性差別の歴史がよくわかり胸が痛くもなる本です。今では考えられないほどに女性の地位が低かった時代においても、周囲の人間が「期待値下げをしなかったこと」がいかに女性の可能性を広げたかがよくわかると思います。
ジェンダーギャップをなくすためにできること
ジェンダーギャップの解消に必要なこと。
マクロ・ミクロを問わず本当にいくらでもできることはあるし、どんなことにトライしてもいい。ジェンダーギャップを解消した国は世界にひとつもありません。誰もが試行錯誤の途中で、完全解がない問題だからこそ、どんなことにもトライする価値があります。
なかでも、一番シンプルで大切なこと、そしてわたしたちがボトムアップできること、それは「自分の半径5m以内のジェンダーギャップを解消すること」です。
ジェンダーギャップをなくすために誰もが今すぐにできること、それは「女の子への期待値下げをなくすこと」です。
それと同時に、「アンペイドワークの初期値をみんなで分け合う意識」が必要です。
アンペイドワークはみんなのもの。毎日を生きるために、誰もが必要とすることです。だからこそ、掃除当番とか給食当番みたいに、もっと普通にみんなで分け合えればいいなと思います。
アンペイドワークの初期値をみんなで分け合う意識があれば、性別役割分担の意識が薄れていくでしょう。
自分が性別役割分担をしているかしていないか、したいかしたくないかはこの際置いておきましょう。あなた個人がどんな人生を生きるかと、「女だから」「男だから」を前提に置いた社会構造を見直していこうという気持ちやアクションは別物です。
性別によらずアンペイドワークを自分のものとしたうえで、誰もが生きるために必要な力を身につけよう。もし誰かと生活を共にすることがあるなら、お互いのキャリアや人生を尊重し合い、フェアな関係を築こう。
みんなでそんな社会をつくることができれば、ジェンダーギャップを埋めていくことができるはずです。
#3のまとめ
- ジェンダーギャップをなくすために誰もができることは、半径5m以内のジェンダーギャップを解消すること。
- 社会の共通認識として、「女の子への期待値下げ」をなくしていきたい。
- そのために「アンペイドワークをみんなで分けあう」意識が必要。
- アンペイドワークも賃金労働も、どちらも人が生きるために必要なことで、どんな人でもやるべきこと。もっと普通にみんなで分け合えればいい。
- 家庭で性別役割分担をしているかどうかと、子供達に何を伝えるかは別問題。
- 女の子には「必要以上にアンペイドワークを担う必要はないし、それを前提として将来を決めなくてよい」、全ての子どもたちに「パートナーを見つけるなら、フェアに協力し合える未来を描こう」と伝えていけるといい。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
最後に素敵な動画をシェアします。小さな女の子たちが、彼女たちを取り巻く社会構造 — 大人たちからの「期待のジェンダーギャップ」に対して問題提起をしてくれます。そして、可能性を信じて夢を描くために、全ての人の協力が必要だと伝えてくれます。わたしもその一員として、できることをやっていきたいと思っています!