見落としがちな「教育分野」の盲点とは?ジェンダーギャップ指数2023レポート


昨日、2023年6月21日にジェンダーギャップ指数2023が公表されました。
本記事では、「ジェンダーギャップ指数とは?」という基礎知識やジェンダーギャップ指数の評価方法から実際の評価までご紹介。
さらに見落としがちな「教育分野」の盲点についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

ジェンダーギャップ指数とは?

「ジェンダーギャップ指数」とは、スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」(ダボス会議)が、男女間の格差を経済・教育・健康・政治の4分野の指標を用いて測定し、毎年公表している男女格差を測る指標です。賃金格差や政治への参加など、複数の観点から男女格差を図ることで、各国が男女格差を把握し改善することを目的として、2006年から毎年公表されています。

これまでの日本の順位

ジェンダーギャップ指数は2006年以来17回公表されてきました。
では、日本はどのような順位を辿ってきたのかを見ていきましょう。

タイトル日本の順位参加国数
200679位115カ国
200791位128カ国
200898位130カ国
2009101位134カ国
201094位134カ国
201198位135カ国
2012101位135カ国
2013105位136カ国
2014104位142カ国
2015101位145カ国
2016111位144カ国
2017114位144カ国
2018110位149カ国
2020121位153カ国
2021120位156カ国
2022116位146カ国
2023125位146カ国

このデータを見ると、年々順位が下がっていることがわかります。
毎年参加国数が変わっているので、一概に順位だけで評価することは難しいですが、常に低い順位であることがわかります。

トップ10の国

次に、トップ10位の国を見ていきましょう。

順位エリア
1位アイスランドヨーロッパ
2位ノルウェーヨーロッパ
3位フィンランドヨーロッパ
4位ニュージーランドオセアニア
5位スウェーデンヨーロッパ
6位ドイツヨーロッパ
7位ニカラグアアメリカ
8位ナミビアアフリカ
9位リトアニアヨーロッパ
10位ベルギーヨーロッパ

ヨーロッパエリアのランクインが多く、アジアが1国も入っていません。
ちなみに近年は、アフリアエリアの上位ランクインが目立ってきています。

ジェンダーギャップ指数の評価方法

ジェンダーギャップ指数は、健康・教育・経済・政治の4分野14項目を「女性÷男性」で計算してスコア(指数)を算出します。「0」が完全不平等、「1」が完全平等となり、「1」に近いほどジェンダー平等として評価されます。

日本の各分野の順位は?

次に日本の分野ごとの順位を見てみましょう。

健康59位、教育47位、経済121位、政治138位となっています。
健康と教育に対して、経済と政治のランキングが非常に低いことがわかります。

1位アイスランドとのスコア比較

ここで、1位アイスランドと日本を比較してみましょう。

アイスランドはきれいな四角を描いていますが、日本は政治分野のランクが異様に低いことが原因で、いびつな三角形を描いていることがわかります。

見落としがちな「教育分野」の盲点

上記の図を見ると、健康と教育は日本とアイスランドはほぼ同じスコアのように見えます。日本は、健康と教育においては問題ないということでしょうか?
教育分野の評価基準となる小項目を見ていきましょう。

「教育分野」は4つの小項目で評価

教育分野では下記4つの小項目によって評価されます。

  1. 識字率(文字の理解・読み書きができる人の割合)
  2. 基礎教育在学率(小学校)
  3. 中等教育在学率(中学・高校)
  4. 高等教育在学率(大学・大学院)

教育分野単体ではアイスランドより日本の方が上位

教育分野単体のランキングを見ると、総合ランキング125位の日本は47位で、総合1位のアイスランドは68位でした。アイスランドが日本より低いなんて意外だと思いませんか?詳しく見ていきましょう。

上記は、教育分野4項目のスコアを日本とアイスランドで比較したグラフです。
これを見ると、識字率は日本もアイスランドも完全平等。しかし、基礎教育在学率(小学校)と中等教育在学率(中学・高校)では、日本の完全平等に対してアイスランドは低いスコアになっています。逆に、高等教育在学率(大学・大学院)では、アイスランドの完全平等に対して、日本は低いスコアになっています。

真実が隠れやすい評価方法

筆者が気になる点として、小学校〜高校までの在学率と大学・大学院の在学率を同じ評価基準にして良いのか?という疑問です。
一般的に、経済が成長している国や地域では、大学への進学率が高い傾向にあると言われています。そして、大学・大学院卒が中卒・高卒に比べて所得が高いことは周知の事実です。
単純に考えると、大学・大学院の在学率のジェンダー格差は経済・政治分野におけるジェンダー格差に影響をもたらすと容易に想定できます。
しかし、4項目をまるっとまとめて評価することで、日本の教育分野のスコアが相対的に高くなってしまい、教育まではジェンダー平等にも関わらず、なぜか経済・政治分野だけ圧倒的な低順位になるというおかしな誤解を与えてしまうのではないでしょうか。

主要先進国(G7)の教育分野のスコア

参考までに、主要先進国(G7)の教育分野のスコアを掲載します。

総合順位教育分野
順位
識字率基礎教育
在学率
中等教育
在学率
高等教育
在学率
カナダ30位1位1.0001.0001.000
フランス40位1位1.0001.0001.0001.000
ドイツ6位82位1.0001.0000.9541.000
イタリア79位60位0.9970.9970.9851.000
イギリス15位34位1.0000.9981.0001.000
アメリカ43位59位1.0000.9990.9791.000
日本125位47位1.0001.0001.0000.976

ご覧のとおり、高等教育在学率は、日本以外はすべて1.000の完全平等ですが、約半数が教育分野で日本よりも低い順位になっています。

在学率だけではジェンダー格差を測れない

そもそも論として「在学率だけでジェンダーギャップは測れないのでは?」という懸念もあります。
画一的な教育手法や教師のジェンダーバイアス(性別に対する偏見)が、生徒の学びにどう影響するかはまだまだ研究途中で結論が出ていないはずです。

ジェンダーギャップ指数はあくまでも目安

まとめると、ジェンダーギャップ指数は必ずしも正しいジェンダーギャップの状況を表していないということです。公表されているデータはあくまでも1つの参考として捉えましょう。

健康・経済・政治分野のスコア

ここまで、教育分野の話ばかりしてしまいましたが、その他の健康・経済・政治分野のスコアについても日本とアイスランドの比較グラフでご紹介します。

健康分野

健康分野では下記2つの小項目によって評価されます。

  1. 新生児の比率
  2. 健康寿命の比率

健康寿命の比率のスコアが1.000を超えていますが、これは逆格差を表しています。すなわち、女性の方が健康寿命が長いということです。

経済分野

経済分野では下記5つの小項目によって評価されます。

  1. 労働参加率
  2. 同じ仕事の賃金の同等性
  3. 所得の推計値
  4. 管理職に占める比率
  5. 専門職に占める比率

経済分野では、今回「専門職に占める比率」のデータが「–」となっており、スコアが算出されていません。ちなみに前回も「–」でした。
前々回の2021では、スコアが0.952で、経済分野の順位は「110位」でした。

政治分野

政治分野では下記3つの小項目によって評価されます。

  1. 国会議員に占める比率
  2. 閣僚の比率
  3. 最近50年間の国家元首在任年数の比率

政治分野の「最近50年間の国家元首在任年数の比率」は女性が0人のため、毎年「0.000」の完全不平等のスコアを更新し続けています。

主要先進国(G7)の17年間のスコア推移

最後に、主要先進国(G7)の2006から2023のスコア推移を見てみましょう。

2006
総合順位 / スコア
2023
総合順位 / スコア
ドイツ5位 / 0.7526位 / 0.815
イギリス9位 / 0.73615位 / 0.792
カナダ14位 / 0.71630位 / 0.770
アメリカ23位 / 0.70443位 / 0.748
フランス70位 / 0.65240位 / 0.756↓
イタリア77位 / 0.64679位 / 0.705
日本79位 / 0.645125位 / 0.647↓

2006年時点ではドイツ・イギリス・カナダ・アメリカ4カ国のスコアは0.7台で、フランス・イタリア・日本の3カ国は0.6台でした。そこから17年が経ち、日本以外の6カ国はすべて0.7台に伸び、日本だけが依然として0.6台になっています。

フランス、イタリアはがんばって追い上げたものの、日本は17年間ほぼ横ばいです。

日本の立場を弁解すると、何も対策をしなかった訳ではなく、他の国の対策スピードが速かったと捉えることもできます。

いずれにせよ、2006年時点で日本と同じ位のスコアだった2カ国が17年で追い上げることができた訳ですから、日本もこれから改善の余地はいくらでもあるはずです。

まとめ

いかがでしたか?
ジェンダーギャップ指数が公表されたことにより、改めてジャンダーギャップについて考える良い機会になったのではないでしょうか?

繰り返しますが、ジャンダーギャップ指数は教育分野の評価方法を見てわかるとおり、必ずしも正確な評価ができている訳ではありません。

それでも日本のジェンダーギャップ(男女格差)が深刻であることには変わりありません。課題の対策を考える上での参考情報になりますので、ぜひみんなで有効に活用して、日本のジェンダー平等実現に向けて取り組んでいきたいですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NPO法人ジェンダーイコール
代表理事 田渕 恵梨子

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