「福祉」という概念の違いは宗教が影響している!?


こんにちは。ジェンダーイコールの田渕恵梨子です。

みなさん、子育て政策に充実している高福祉国家といえば、スウェーデンやノルウエーなどの北欧諸国を思い浮かべませんか?そしてフランスはここ10数年で結婚や子育ての価値観が急激に革新し、アメリカは低福祉・低負担の自己責任意識を貫き、日本や韓国は未だに家族主義の思想から抜け出せていない印象を受けます。

私はこの問題は従来の固定観念から脱却できるかどうかが論点だと考えていました。
ですが、柴田悠氏著「子育て支援と経済成長」によるとおもしろいことが書かれていました。

福祉の概念が国のエリアによって差が出ている点に着目し調査した結果、宗教の歴史が大きく関わっていたそうです。
とても興味深い内容だったので、こちらでご紹介したいと思います。

ドイツの神学者「マルティン・ルター」について

みなさんは、ドイツの神学者である「マルティン・ルター(1483年~1546年)」についてご存知でしょうか?
私は知りませんでした(汗)。
ルターは、当時ドイツ国内でカトリック教会が教会の運営や貧しい人々を助けるための資金稼ぎとして盛んに販売していた贖宥状(それを買えば罪の償いが軽減される)に対して疑問を抱き、教会主導ではなく「住民の共同基金による救済」を発案した人物です。

時は16世紀のヨーロッパ。当時、カトリック教会は「これを買えば天国に行ける」と贖宥状(しょくゆうじょう)=免罪符をたくさん発行していました。

そもそも立派な教会を建てるカトリックは、財政難に陥りがちでした。また、病人や貧困者を救護院(ホスピタル)に収容して救済する「チャリティー」(慈善活動)にも、お金がかかります。そこで、贖宥状を販売し、信者から差し出されたその寄付金で貧しい人を救うという、いわば一種の社会保障を、カトリック教会が宗教的な活動として行っていたのです。

この贖宥状の発行を批判したのが、ドイツの神学者マルティン・ルター(1483〜1546)でした。ルターは貧しい人を救うことは善しとしていましたが、贖宥状の発行には反対の立場を取っていました。というのも、「お金を払って贖宥状を買えば、天国に行けますよ」というカトリックの教えは、「神の心はお金で買える」ことを意味しているからです。人間が作ったお金というものに心を動かされてしまう神など、ほんとうの神ではない、だからカトリックの教えは間違っている。そうルターは思ったのです。

〜中略〜

そこでルターは、発想の転換をしました。
つまり、貧しい人を救う活動は教会が行うのではなく、住民たちがお金を出し合って作る共同基金によって行うべきだ、と提案したのです。
そしてその基金を使って、働けない貧困者・病人・孤児の生活保障(現金給付・現物給付)や、語学教育・職業訓練(サービス給付)までも行うべきだと提案したのです。西洋史上類を見ないこうした公的基金による給付型の貧民救済策によって、ルターは、カトリックがそれまで行ってきた貧民救済と、教会とを切り離そうとしました。

ここからルター派宗教改革が広まります。

こうして北欧は高福祉国家になった

ルターはドイツ人でしたが、ちょうどその頃、スウェーデンの神学者がドイツに留学しルターを師事して改宗した後、スウェーデンに帰国しています。詳しくは割愛しますが、その神学者の主張が当時のスウェーデン国王に擁護され、国内全土で宗教改革を推し進めた結果、カトリックが姿を消し、ルターの教えが全国規模に拡大したそうです。現代の公的な給付型の社会保障制度は16〜17世紀にこのスウェーデンから始まり北欧諸国に広まったのです。
ルターはドイツ人だったと述べましたが、なぜドイツでは広まらず、北欧諸国でのみ拡大したのでしょうか?
その要因の1つとして、地理的な要因があるようです。

つまり、北欧は、カトリックの本拠地イタリアから、「遠く離れていた」ということです。距離がある上に、間にバルト海まで挟んでいますから、北欧諸国の国王たちは比較的好きなことができたのでしょう。

う〜ん、なるほど。私の勉強不足を露呈しますが、初めて知った歴史です。
こうして北欧諸国に高福祉の考えが浸透し、現代まで受け継がれるようになりました。

低福祉国家・アメリカ

次にアメリカを見てみましょう。
ルターの宗教改革後に、さらにもう1人の宗教改革の立役者として登場したのが、フランス生まれの神学者「ジャン・カルヴァン(1509〜1564)」です。今日はルターの存在を詳しく書きたかったので、カルヴァンについても割愛しますが、超ざっくり言うと資本主義の精神を普及させた人物です。

もともとイギリスでのカルヴァン派による宗教改革によって誕生したイギリス国教会は、カトリックの本拠地イタリアが近く、政治的な影響もあったため、カルヴァン派とカトリックの折衷案のような教義になりました。そのため、純粋なカルヴァン派の人たち(ピューリタン)は、イギリス国教会から弾圧を受けるようになったため、それを逃れて北米大陸に渡りました。彼らがそこで作った、世界で最も純粋なカルヴァン派の国、それがアメリカなのです。
純粋なカルヴァン派である彼らは、神の愛の兆候を確認するために、禁欲的な生活をしながら、利潤をどんどん再投資したいと考えていました。そのためには、利潤(所得)にかかる税率はできるだけ低いほうがいい。税率が高いと、そのぶん手取りが減って、再投資に使えるお金が減ってしまうからです。そのようなカルヴァン派の考え方が根底にあるために、アメリカは税率が低く、社会保障が乏しい低福祉の国になっていったのです。

こうして、アメリカはカルヴァン派によって低福祉国家になった訳です。

フランス、ドイツなどの西欧諸国

フランスやドイツはどうでしょうか?
カトリックの歴史の長いフランスやドイツなどの西欧諸国は社会保障はやや保守的な国家だそうです。

フランスやドイツなどの西欧諸国は、社会保障はかなり手厚いほうですが、北欧諸国と比べると、その比重は高齢者福祉に偏っていて、子育てはまだ家族(主に女性)に任されている部分があり、やや保守的です。とはいえ、これらの国は1990年代以降に女性の職場進出が急速に進み、それを後押しするように、子育て支援がだいぶ充実してきました。

とはいえ、昨今では多様性を受け入れた子育て支援制度が充実しています。特にフランスは、PACS法(パートナー制度)や同性婚の受け入れなど、昨今は現代モデルの最先端を進んでいる印象を受けますね。

イタリアなどの南欧諸国と中国・ロシア

カトリックの本拠地であるイタリアを含む南欧諸国はカトリック的伝統が強いため、それから中国やロシアは当時すでに共産主義的な家族システムが普及していたため、ルターやカルヴァンの思想は定着しなかったようです。
確かにこれらの国々は保守的なイメージです。

日本と韓国

最後に日本や韓国にも触れておきましょう。言わずと知れた男尊女卑の家族主義。当団体も未だに日本で女性の社会進出が思うように進まないことにジレンマを感じて立ち上げた訳ですが、なぜこんなにも他国に遅れを取っているのでしょうか?
日本に関しては、このようなことが書かれていました。

そもそも日本では、長い歴史のなかで、キリスト教やあるいはそれと同様の人類愛を軸とする宗教が、少なくとも江戸時代まではほとんど普及してこなかったからではないでしょうか。かわりに日本で長く信じられてきた宗教は、神道と大乗仏教でした。とくに、広く民衆の苦しみに寄り添ってきたのは、救済(慈悲)の教義が色濃い大乗仏教でしょう。
大乗仏教では、「生命はすべて仏性を持っていて尊い」(一切衆生悉有仏性)と考えられており、人間と動物を分け隔てしません。どちらも等しく尊いのです。ですから、「動物のことは無視して人間だけを制度で救おう」という考えがなかなか出てこなかったようです。

韓国は儒教の国として有名です。年長者を敬い、血縁優先、父系社会を軸とした、上下関係で秩序を守る風習が、今でも韓国の人々に根付いていると言われています。今では随分緩くなってきているとは聞きますが、この考え方だと子育ては女性という価値観が強いでしょうから、なかなか子育てに手厚い福祉といった考え方には近づきにくいのかもしれません。そして日本にも少なからずこの儒教の考え方が浸透していることも事実です。

まとめ

いかがでしたか?国毎に福祉の概念が違う点を全てこの宗教の歴史で片付けるつもりはありませんが、要因の一つではあるように思います。
ちなみに、もっと現実的な理由として、国の財政余力が影響しているといった要因もあります。こちらについては篠原さんが執筆してくれると思いますので、お楽しみに!

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