−− みなさん、こんにちは。NPO法人ジェンダーイコール田渕です。
私はご縁があり、大手町にあるイノベーティブなビジネスワーカーが集まるサードプレイス「3×3Lab Future(さんさんラボ フューチャー)」の個人会員として活動させていただいています。
この3×3Lab Futureを運営している一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(通称:エコッツェリア協会)は、次世代への持続可能なビジネス創発や社会づくりに取り組んでいる団体です。
その活動のひとつとして、スポーツ業界と連携したアスリートのデュアルキャリア形成支援を行っており、関連イベントの実施のほか、3×3Lab Futureでのアスリートインターンシッププログラムを提供しています。
ある日、私が3×3Lab Futureを訪れた際、会員さん同士のゆるやかな繋がりづくりを担当されているネットワークコーディネーターの田邊智哉子さんに、アスリートインターンの卒業生である吉林千景さん(府中アスレティックFCレディース)を紹介していただく機会がありました。その時にスポーツとジェンダーに根深い問題が潜んでいることを初めて知りました。
そこで、もっと詳しく「スポーツとジェンダー」について話を伺いたいと思い、田邊さんにお願いして、スポーツ業界に関わる人たちとの意見交換会を設けていただきました。
その内容を記事にまとめましたので、よろしければご覧ください。
なお、記事はジェンダーイコールの田渕&紀本が聞き手役として、アスリートのみなさまに取材する形式で書かせていただいております。
参加者のご紹介
槙島貴昭(まきしま・たかあき)
株式会社B-Bridge プロジェクトマネージャー
B-Bridge日本支社として東京に拠点を構え、アスリートのマネジメント・デュアルキャリア育成およびサポート
「 ATHLETE BEYOND 」に力を入れて活動中。
吉林千景(きちばやし・ちかげ)
府中アスレティックFCレディース・女子フットサル選手
2011年よりフットサル女子日本代表選手。スペイン女子フットサルリーグへ移籍するも、二度に及ぶ膝の大怪我で帰国。競技に縛られていたキャリアに疑念を抱き、「3×3 Lab Future」でのアスリートインターンやWebライターとしての活動を始める。
鳴澤眞寿美(なりさわ・ますみ)
一般社団法人コーチトラスト理事
大学よりサッカーからラクロスに競技を変え、日本代表を経験。2015年からは指導者としてのキャリアを歩み始め、筑波大学と茨城大学で計4年間ヘッドコーチを務めた。
(出典:一般社団法人コーチトラスト)
田邊智哉子(たなべ・ちかこ)
3×3 Lab Future ネットワークコーディネーター
2018年7月から株式会社STORYに所属し、3×3Lab Futureのネットワークコーディネーターとして、主に個人会員の運営やイベントサポートを行っている。
(出典:エコッツェリア)
- 田渕恵梨子(たぶち・えりこ)NPO法人ジェンダーイコール代表理事
- 紀本知都子(きもと・ちづこ)NPO法人ジェンダーイコールメンバー/一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程
スポーツ界のジェンダー格差について
−− プロスポーツ界のジェンダー格差について教えてください。
−−− (吉林さん)サッカーで考えると、男子と女子では、選手数やコーチ数、そして給与水準が全く異なります。すべてにおいて女子の方が圧倒的に低いのが現状です。女性アスリートは給与が安い。それがあたりまえになっています。
−−− (槙島さん)現状では、サッカーやラグビーのようなフィジカル(ぶつかりあう)なスポーツの場合、やはり男子の方が迫力があるので注目されやすいですね。見る側がエキサイティングできるような仕組みを考えることは重要です。
−−−(鳴澤さん)テニスやゴルフのような個人競技はあまり男女差がなく、女性アスリートでも稼ぎやすいというのはありますね。
私は元々幼少期からサッカー漬けの日々を送っていましたが、大学からはサッカーからラクロスに転向し、ラクロスの日本代表を経験しました。ラクロスの世界に入って、サッカーとの違いがいろいろあることに気づきました。例えば、女子サッカーは男性コーチがあたりまえでしたが、女子ラクロスは女性コーチがあたりまえです。そして、日本では競技に関わらずスポーツコーチとして稼げる女性はほんのわずかですが、アメリカやカナダでは、女性があたりまえにスポーツコーチとして稼いでいます。
−−− (吉林さん)あと、スポーツ会場では100%女性用トイレが混みますね。これは、会場自体が男性向けに設計されていることが原因です。
−− 確かにスポーツに関わらず、圧倒的に女性用トイレは混みやすいですよね。高速道路のサービスエリアなどは、圧倒的に女性用の個室を増やして混雑の解消に力を入れている印象を受けます。スポーツ会場もスポーツ観戦者=男性という固定観念を払拭して改善されていくと良いですね。
ユニフォームのジェンダー差別
−− 東京オリンピックで話題になりましたが、ビーチハンドボールのユニフォームで、男子ビーチハンドボールの選手は「膝上10cmの短パン」なのに対して、女子選手は「ビキニの側面の幅は最長で4インチ(約10cm)まで」「脚の付け根に向かって切り込んだ形のぴったりとしたビキニパンツ」を着用しなければならない。というルールがあることを知り、衝撃を受けました。ものすごいセクハラかつ性差別で気持ち悪くて頭がクラクラしましたが、サッカー界では、何かジェンダー差別的な事はありますか?
−−− (吉林さん)サッカーの日本代表チームは、男女同じユニフォームです。他国では女性ラインで作られていることも多いので、日本も選択肢として選手が選べるようになると嬉しいです。
−− やはり男女同じユニフォームだと動きにくいですか?
−−− (吉林さん)そうですね。基本的に男性向けに作られているので、女性選手は動きやすいようにすそを折ったりして工夫する必要があります。
−− 日本代表にも関わらず、選手がそんな苦労をしているなんて驚きです。ビーチハンドボールの件もそうですが、女性選手への配慮が無さすぎるように思います。
−−− (吉林さん)日本も少しずつ変わってきているので、早く改善されると良いなと思います。
女性アスリートの生理問題
−− エコッツェリア協会が主催するイベント「アスリート・デュアルキャリアプログラム2021」の1回目のオンラインイベントでは、アスリートとして活躍しながら、株式会社Reboltの共同代表である下山田志帆氏・内山穂南氏両共同代表が講師として登壇されました。私、田渕も聴講させていただいたのですが、講座ではお2人が開発されたアスリート発の吸収型ボクサーパンツ「OPT」の開発経緯や商品の特徴について説明されていました。そこで初めて、女性アスリートの生理の苦悩について知りました。吉林さん、鳴澤さんからも女性アスリートの生理問題についてお話を聞かせてください。
−−− (吉林さん)私は若い頃は自分でうまく体調管理ができず、生理が止まってしまいました。中には、「現役中は来なくてもいいや」と考えているアスリートもいます。
日本では、生理全般に関する男性の知識が乏しいと思います。そのため、男性指導者の方が女性アスリートの身体に関する知識を持っていない場合は、男性と同じ体脂肪率を求めらてしまうケースもあるようです。
−−− (鳴澤さん)まず必要なことは、生理に関する男性の知識向上ですね。
−−− (吉林さん)海外だと生理用ナプキンもトイレットペーパー感覚で利用できる状況になってきています。日本も少しずつ変わってきてはいますが、女性スポーツの促進に向けて、「今、生理中」と言い合えるような、フォローしあえる空気感が必要だと感じます。
アスリートは「デュアルキャリア」を考える必要がある
−− 槙島さんは、エコッツェリア協会と共に「アスリート・デュアルキャリアプログラム」を運営されています。現役アスリートのみなさまが感じる「アスリートのキャリア問題」について感じることを教えてください。
−−− (槙島さん)例えば現役Jリーガーと言っても、カテゴリーや選手の実力によって給料や待遇にかなりの差があります。カテゴリーが下の方になれば、一般的にみなさんが思い描くようなJリーガーとは少し違った状況の選手もいるということを知ってほしいですね。
−−− (吉林さん)スポーツのみに専念し、デュアルキャリアを考える余裕のない選手は非常に多いと思います。それが故に引退後のキャリアに強い不安を抱くことになります。たとえスポンサー会社で働くことができても、スポーツ一筋でやってきた人間が突然会社に放り込まれてもなかなか順応できるものではなく、苦労するアスリートが多いです。
まず、社会人があたりまえに知っていることがわかりません。一般的な税金面や役所の手続きなどについてもよく知らないアスリートが多いと思います。
−−− (鳴澤さん)メディアでは、成功した選手だけが光を当てられますが、実際はほとんどが光の当たらない人たちです。それが故に、なかなかそういった事情を知る機会が少ないのが現状です。
−−− (吉林さん)女性の場合、ロールモデルが非常に少ないので、引退後のキャリアイメージが描きにくいという問題もありますね。
目指したい未来
−−− (鳴澤さん)私はスポーツを辞めた人も自立して生きていける文化をつくりたいと考えています。
−−− (吉林さん)アスリートだからスポーツだけに専念する環境ではなく、あたりまえにデュアルキャリアを考える文化づくりが必要だと思います。
アスリートは特別ではありません。一方で、なんとなく一般的に「アスリートは特殊な人種」というイメージがついてしまっているように思います。この垣根を無くすためにはスポーツを観る側もアスリート側も歩み寄る必要があります。
今の日本のスポーツ業界は社会に還元しているものが少ないように感じています。「アスリートはサポートを受けてスポーツだけに専念すれば良い」という文化がありますが、サポートを受けるのであれば、社会に還元する意識を持つ必要があるのではないでしょうか?例えば、そのスポーツに興味をもってもらう方法を考える等、アスリート自身がスポーツを社会に還元できる方法を模索する文化が必要だと感じています。
−− 今回お話を伺って、スポーツ業界でジェンダーやデュアルキャリアといった課題が山積していることを初めて知りました。ジェンダーは文化的性差と言われていますが、スポーツのジェンダー問題は文化的性差と生物学的性差が複雑に絡んでいると感じます。
吉林さんの「生理が止まってしまった」というエピソードがありました。詳しい原因はわかりませんが、もしかしたら、男性と同じ基準の体脂肪を求められたり、精神的な面から起きた現象かもしれません。
何が理想なのかは人それぞれだと思います。
しかし、もし性別によって我慢したり、諦めていることがあれば、ぜひ声を上げてみてほしいです。たとえ小さい声であったとしても、もしかしたら共感してくれる人が出てくるかもしれません。共感者が増えることで社会の問題意識が高まり、改革に繋がります。何も声を上げなければ、何も生まれないのです。
アスリートの活躍は私たちに感動と希望を与えてくれます。
アスリートのより良い環境づくりは、めぐりめぐってみんなにプラスの効果をもたらして返ってくるものだと感じます。
今回のお話を機に、当団体でもスポーツのジェンダー問題について知見を深めて考えていきたいと思いました。
みなさま、素敵な機会をありがとうございました!
インタビュアー
田渕 恵梨子(NPO法人ジェンダーイコール代表理事)
紀本 知都子(NPO法人ジェンダーイコールメンバー)