わたしたちジェンダーイコールは、「性別にかかわらず誰もが自分らしくチャレンジできる社会」そして「他者のチャレンジを応援できる社会」を目指し活動するNPO法人です。
生殖機能や身体的特徴を区別する生物学的性差のことを、英語では「セックス(Sex)」と言います。一方で、「ジェンダー(Gender)」とは、社会的・文化的性差。簡単に言えば、社会的・文化的につくられた「男/女らしさ」といった概念を含む性別のことです。
みなさんは「ジェンダー平等」という言葉にどんな印象を持っていますか?
日本語にすると「男女平等」… ややこしく感じる方も多いのではないかと思いますが、ジェンダー平等とは、女性と男性の生物学的機能を無視して同じになろう、ということではありません。
ジェンダー平等が目指すのは、「男/女だから〇〇するべき」「女/男らしくないから〇〇するべきでない」などといった、性別らしさに基づいた押し付けや決めつけをなくし、個人としての特性や志向を尊重することで、あらゆる人の可能性を広げていける社会を創っていくことです。
子供向け性教育プロジェクトI’s(アイズ)
性教育プロジェクト「I’s(アイズ)」は、ジェンダーイコールの大学生メンバーの発案からスタートしました。「居場所づくりをしたい」というコンセプトのもとに、性教育に関する知識をメンバー自身ゼロから勉強して作り上げていくプロジェクトとして活動しています。
「I’s(アイズ)」というプロジェクト名は、
①合図:ひとりひとりが自分の個性に自信を持ち主張できるように
②Eyes:相手の目を見て、ひとりひとりに向き合う
③I’s:無個性な集団(WeやThey)ではなく、個人(I)が集まり大勢になる
というトリプルミーニングから名付けました。安心できる「居場所」として、ひとりひとりを尊重したいという想いを込めています。
子どもたちを取り巻くインターネットと多様な性情報
子どものインターネット利用についての調査(※1)によると、0〜9歳の動画視聴割合は89.2%。スマートフォン利用率は中学生で65.6%、小学生でも37.6%に上ります。
動画広告には、ルッキズム(外見至上主義)を煽るようなものも数多く見られ、短絡的に作り上げられた価値観を一方的に植え付けられるリスクがあります。コミュニケーションツールの側面としては、プライベートな画像を送ったことで脅迫を受け、性被害に繋がるといった事件も起こっています。
インターネットの普及によって、親世代が子供の頃にはなかった恩恵を受けられる反面、それに付随する脅威についても目を向ける必要があるでしょう。
性教育の現状
学習指導要領には「受精に至る過程(セックス)」は取り扱わないと記載されています — 通称「歯止め規定」。
『性に関する指導についての実態調査とこれからの性に関する指導の在り方の検討』(※2)によると、300名の教諭(幼稚園〜高等学校)のうち、96%が性に関する指導を行っていますが、そのうち性加害や性行為など教科書にない内容を教えていたのは1割以下でした。指導を行わない理由としては「どう教えていいかわからない」「他のことで手一杯」との回答が挙がっています。
当プロジェクトが行ったアンケート調査(※3)では、99名の女子大学生が「小学校〜高校の間で性に関する知識を教えてもらいたかった(複数回答可)」のは、同性の先生(75.8%)が最多。その次が母親(57.6%)でした。3番目に多かったのが本(25.3%)で、インターネット(15.2%)も含むと「一人で知りたかった」というニーズも見えました。
「実際に性に関することを保護者から教えてもらった」と回答したのは半数以下の46.5%。「親とは気まずくて話しにくい」という意見もありました。
社会背景を考慮した体系的な性教育を義務教育で受けることが望ましくはあるものの、学校側のリソース不足という構造的な問題があり、ごく一部の先生や保護者が自主的に学んだ知識を教えている、というのが性教育の現状であると言えそうです。
このような状況に危機感を持ち活動をされる方も増えており、動画や本などのコンテンツは豊富になってきています。ただし、自らの判断で正しい場所へアクセスできるのは、早くても中学生頃からでしょう。
性教育とは「からだ」と「こころ」を尊重すること
性教育の根本、それは、「からだ」と「こころ」の「尊重」です。
思春期になってから性行為や避妊の方法を教えることだけが性教育ではありません。防犯の観点から、小学校低学年・あるいは未就学児にも「自分の身体と感情は自分だけのもので、決定権は自分にある」と伝えていく必要があると考えます。その前提がしっかり身についていることによって、相手のことも尊重できるのです。
「からだ」と「こころ」を、誰かの物差しで測られることのないように。自分自身を大切にできるお守りが、誰にとっても必要です。
I’s(アイズ)の活動
当プロジェクト「 I’s(アイズ)」では、小学校3年生向けの「辞書×絵本」を制作しています。
ものごとの意味を客観的に解説する辞書と、ビジュアルで直感に訴える絵本。それぞれの良さをかけ合わせた「辞書×絵本」という表現方法を通して、「からだ」「こころ」の2章立てとし、子どもたちに知っておいてもらいたいことについてひとつひとつ丁寧に伝えていきます。
また、年代・性別・子供との関わりの有無を問わず、広く一般社会へ性教育の大切さを伝えるとともに、性教育をもっと身近に捉えてもらうことを目的としたイベント活動も併せて行っています。
「子供向けの性教育について考えよう」をテーマに、2021年6月に津田塾大学「ヒューマンセクソロジー/木村朗子先生」講義にて公開授業(参加者120名)、8月には学生団体Tsuda Outreach主催の一般向けオンラインイベント(参加者40名)を開催しました。参加型のワークショップでは、子ども(小学校3年生)役と保護者役に分かれてロールプレイングを行いました。子供の性に関する疑問に大人が答えることで、性教育の難しさや、大人自身が性について知ることの大切さを体験していただきました。また、雑談やアンケートでは子供の頃や思春期の頃に感じていた悩みや困っていたことを挙げていただき、たくさんの貴重な体験談やご意見をいただきました。
わたしたちが性教育で伝えたいことは、「自分自身を大切にし、他者を尊重する」ことです。
絵本の配布に関心のある方、イベントを開催させていただける学校関係者などの方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。
【参考】
※1:内閣府 令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査
※2:京都女子大学発達教育学部紀要 2021, 第17号 大川尚子, 奥村菜月, 田之上啓太
※3:津田塾大学ヒューマンセクソロジー講義内, 2021年6月
本コラムは、『市民活動のひろば 2021年9月号 No.193 〈特 集〉性を学ぶことは権利です ―「かけがえのない自分」を知るために』に寄稿させていただいた文章の再掲です。
「市民活動のひろば」さんは、東京・多摩地区を中心として2002年より年間10回の市民活動情報誌の発行をされています。